投稿日:2008-04-14 Mon
![]() | ためらいもイエス (文春文庫 や 40-1) (2007/12/06) 山崎 マキコ 商品詳細を見る |
昨日までは徹底無視の気持ちで固まっていた。けれど今日は揺れている。ウナギのおかげで揺れている。わたしの人生、このまんまでいいんだろうか。
(体力をつけんといかん!ウナギでカツ!)と一ヶ月うな重ばかり食べてバリバリ仕事をし、あげく(当然ながら)栄養失調でぶっ倒れ、運ばれた病院で母親に押しつけられた見合いを思い出す三田村奈津美。
そんな奈津美はもうすぐ29歳。そしてバージン。男性とは仕事上のビジネスライクな付き合いしかせず、深い付き合いは後輩のスポーツ系女子、青ちゃんとだけ。
奈津美はそんな日常を、ひどく気に入っていたはずだったのだけれど。
そんな奈津美と、とある3人の男性の距離が、なぜだか急に縮まってしまう。
半ばやけで出席した見合いの席に現れた、意味深で謎めいていて、けれど顔はギンポ(天ぷらだねによくつかわれる魚)によく似たギンポ君(本名は神保)。
いつも黙々とした、どこか影のあるキレ者社員、中野さん。
そしてとにかく元気で、子供のように健やかで元気なスポーツマン、桑田さん。
はたして奈津美は、棒に振った思春期を取りもどせるのか!?
山崎マキコさんの作品はこれで3冊目。
前作「マリモ」や「スナフキン」は、「たはは」と腹を抱えて笑えるおかしな軽さと、「私はどこに行けばいぃ?何をすればいい?」という、(たぶんたいていのひとが抱えてる)祈りにも似た問いかけがまざっておりなされた、本当に素敵な物語。
『ためらいもイエス』はどちらかといえばラブコメの要素がやや強めの物語ですが、今回もそれはやっぱり物語に息づいている。
それはつまり、これ以上にないくらいのおかしさと切なさが、いっしょに詰まっているということ。
元気な後輩、青ちゃんとのやりとりなんか、毎度サイコ―に笑えるし、青ちゃんの奈津美を想う気持ちは本物で(ときどき多少強引だけど)、そんなところも読んでてうれしくなる。その一方。
支配欲の強く自分はすべて正しいと信じて疑わない母親に、傷つけられた奈津美自身、そして姉、妹の、胸が苦しくなるような今だとか。
思いもかけずに、心から楽しんでいたつもりでじつは他人を傷つけていた自分に気づく瞬間とか。
いっそ自分のシアワセは叶わずともあなたには幸せになってほしいと願う。けれどその願いすら届かないと思い知らされる瞬間とか。
奈津美のことなのに、こっちまで胸が痛くなる。
「わたしはね、そのときに何かわかりかけた気がした。でもそれがなんなのか、まだ把握できずにいる」
するとギンポ君は、かるく微笑んだ。
「姫はね、本当の悲しみを知らない」
「悲しみ? 知ってるよ。子どものころから、うんざりするくらい」
「うん、でもね、本当の悲しみは、まだ知らない」
悲しみというもの自体ひどく個人的なもので、そのうえ「本当の悲しみ」なんて、こんなふうに部分的な文章だけ抜き出してもそんなのは伝えきれるものでないと思うのですが、あえて引用。
少なくとも奈津美にとっての「本当の悲しみ」は訪れて。
それでも前を向いて歩いてゆく力を、この物語は貸してくれると思う。
ラストに待つ、これ以上にないハッピーエンドで。
(あとは物語のところどころでギンポ君が奈津美にくれる、難解だけれど心のこもった言葉の数々を、読後何度も思い返して噛みしめたり)
ホントにおかしくて切なくて、こんな言葉じゃ言えないくらい、私にとって素敵な本。
すごくオススメです!
山崎マキコ 『ためらいもイエス』 文春文庫
投稿日:2008-03-10 Mon
![]() | さよなら、スナフキン (新潮文庫) (2006/04) 山崎 マキコ 商品詳細を見る |
わたしはたぶん、この世のどこかでスナフキンに出会いたいのだ。
冷たくしているのはそぶりだけで、心のなかではとてもわたしを愛している――そんな存在と出会いたいのだ。
美人でもなく、これといった特技も資格もなく、大学もふたつめで、年齢でいえばもう3浪同然、いつも一生懸命だけれども、あまりにドジで不器用な女。その名も、大瀬崎亜紀。
そんな大瀬崎、ひょんなことから編集プロダクションでバイトを始めることになり、そのうえバイト先のシャチョーから「大瀬崎、君に本を書いて欲しい」とまで依頼され!
だれかに必要とされたい。こんなわたしでもシャチョーの力になれるのなら。
その一心だけで身を削るように働き続ける大瀬崎。でも、それは本当なんだろうか。
もしかしたら、私の今まで読んだ本の中で1番大切な本、かもしれません。
それにしてもまあ、この大瀬崎亜紀って女、只者じゃない!
初めての面接の真っ最中、慌てるあまりくしゃくしゃの履歴書をポケットから取り出してその場で封筒につめ、編集のバイトなのに「キュウリを1分間で50枚輪切りにできるともらえる」という食物検定4級の有資格者であることをアピールした後、切り貼りしていない自分でもこわい顔と思う証明写真4枚を「ぜんぶどうぞ!」と差し出したり。
「地図を書いて来い」と言われれば道中の住宅街の表札を「近藤さんち」「松田さんち」と一件一件しらみつぶしにメモあげく、「円い家」「犬の吠えている家」を目印にした、ある意味すんごい地図を差し出す始末。
あんまりおもしろくて、一瞬、これはギャグ小説(?)ですか?って本気で聞きたくなりました。
でもこんなに抜群におもしろくておかしいのに、こんなにしんみりいたくてやさしい物語は、たぶん他にないです。
だって途中まで読んだら気づいてしまう。
「だれかに必要とされたい」ってもがく大瀬崎の姿は、けして他人事でなく。
もしかしたら、自分の姿かもしれないってことに。
物語中盤、大瀬崎は倒れそうになりながらも「自分の居場所」を見つけ、幸せな日々を手に入れます。
けれどそのまま安易にハッピーエンドの結末や、そのまま大瀬崎の成長物語にしないところが山崎マキコさんらしいところ。(3冊しか読んでない私が言うことじゃないですが)
ちなみに、帯に書いてある「あなたを守ってあげたい」って言葉。
私は最初見たとき、「(あまりに不器用な大瀬崎を)守ってあげたくなる」という意味かと思ってたんですが。
ぜんぜんちがってた。
いや、まるっきりマチガイ!ってわけじゃないんだろうけど、それだけではけしてない。
これはこんなに想いの詰まった意味だったんだなって、読後なんだかすんごくしんみりしてしまいました。
やっぱり山崎マキコさん作品、大好きです。
最後に、角田光代さんの解説文から一部抜粋。
終盤のある箇所で、私は深い解放を味わった。自分の中でひそやかに育つ矛盾の種、ふだんは目をそらしているその部分に、甘くやわらかい水をたっぷりと注がれたような、不思議な開放感だった。(中略)
なんて誠実な主人公だろうと思わずにはいられない。続けて、なんて誠実な書き手だろうかと作者を思う。私が終盤で深い解放を感じることができたのは、この二人の鋭いナイフのような、妥協のない誠実さのおかげなのだろう。
山崎マキコ 『さよなら、スナフキン』 新潮文庫
投稿日:2008-02-18 Mon
![]() | マリモ―酒漬けOL物語 (新潮文庫) (2005/03) 山崎 マキコ 商品詳細を見る |
飲み会の帰りに電車で寝てたら酔っ払いに靴とズボンの上に大量の××を吐かれました。
というわけでこんにちは、月見です。
のっけから汚いお話ですみません。
昨日大学の実験(月見は心理学の勉強してます)終了祝いということで、
友達の家でささやかな打ち上げをしてきました。
唐揚げ揚げておむずび作って、菓子をぼりぼり食いながら酒を飲む。
そんなささやかで、でもとっても幸せな気分になれるよな、そんな打ち上げでした。
余談ですが、高校時代はすんげー周囲から浮きまくって孤立して、
やらせとか悪口とかに往生してしばらくめちゃくちゃになってた月見にしてみれば、
(うわべだけでない)友人と集まって打ち上げなんてこと、
冗談みたいだけれどホントに一時の夢でした。
最初の方の唐揚げ、一部生っぽかったけど、おいしかったです。
みんなみんな、ホントにありがうとねと、小さなお礼をメールに乗せて送りました。
ところで今このブログを読んでくださってるひとの中で、月見のような憂き目にあわれたことのあるってひと、いますでしょうか?
あーいうときって、だれに怒ればいいのかわからなくて困りますよね?
連れのひともいたんですけど、へべれけになった相方さんの介抱で手一杯って感じだし。
なんか気の毒だったんで、ポケットティッシュあげたらすんげー謝ってました。
ここまで読んだら、なんか月見=『他人から服に吐かれたのにキレるどころかティッシュまで差し出すいいひと』、みたいですけど。
なんでしょう。
単に月見もうたた寝起きなうえに、その前に飲んだ友人秘蔵のきっつい梅酒とその他の酒のせいで、あんまり意識がしゃっきりしてなかった、ってだけの話で。
今朝になって、洗っても洗っても靴の汚れがとれなくて、せめてクリーニング代くらいもらえばよかった、
前置きがすんげー長くなりましたが、『酔っ払い→ダメ人間』で思い出した素敵な本をご紹介。
山崎マキコ 『マリモ 酒漬けOL物語』 新潮文庫
↓以下、ややネタバレあり
物語の主人公は食品会社に勤務するOL、大山田マリモ。
立派な人になりたくて一生懸命頑張るけれど、不器用なうえうさばらしに酒を飲みまくる癖があり、ついには憧れの上司にも見捨てられていつのまにかダメOLの仲間入り。
そんなマリモの傍らには、いつも坂上くんって同僚がいて、そのひとがこれまた不器用で、けれどそれこそ死に物狂いの一生懸命さで落ち込むマリモを元気づけようとずっとずっと頑張るんですけど。
マリモのこころには届かず。マリモは会社を辞めてしまうのです。
立派なひとになりたいのに、がんばっててもダメ人間から抜け出せない。
わたしはいったいどうしたらいいんだろ?
さ迷うマリモの姿は、けして他人のものではないです。
物語はけしてハッピーエンドではないけれど、読後は少し気が軽くなります。
自分のダメなところ、ダメだらけの自分の姿を掘り返されてぶちまけられた後のような。
こんなやつでももう少しだけがんばれるかも、なんて思えます。
月見にとっての、『へこんだ時の応急処置用の本』っていくつかあるけれど、これはその中の1冊。
必要かな、と思うひとに、届かなかった坂上くんの言葉が届けばいいです。
終わり。
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