投稿日:2008-04-19 Sat
![]() | 底辺女子高生 (幻冬舎文庫) (2006/08) 豊島 ミホ 商品詳細を見る |
むやみに「もっともっと」と思ってばかりいたことを、遠いものだと思う時はいつか来る。それは確信だった。
作家の豊島ミホさんが、ホロ苦にして「底辺」だった高校時代をつづったエッセイ集。
ところどころに自筆のイラスト(これがすげー上手い)つき。
そのころ豊島さん作品を2,3冊読んですっかりにわかファンになっていた私は、「あんなに素敵な物語を書くひとなのだから、きっと高校時代もすごいエピソード満載だったんだろーな」って勝手に思いながら読み始めたのですが。
正直言って、ものすごく地味。豊島さんの高校時代=『檸檬のころ』、って言ってもいいくらい。(すんげー乱暴な説明ですが)
たしかに秋田から1200km離れた大阪までの家出、それからのおよそ2週間の家出旅行だとか、寮内恋愛厳禁!という掟の徹底のあまり、異性を見たら虫と思え!状態にまでなっている下宿生活とか、私には経験のない、けっこう破天荒なエピソードだって並んでいるのですが。
けれど基本は「出し物は缶つみ。盛り下がりまくりの学際」だとか「教室のみんなから底辺扱いされた学校生活」だとか、「ゲーム三昧の夏休み」といったエピソードの数々で、なんていうか取り立てて特別目立つような出来事なんて起こりはしない。
強いて言えば、教室内で一番下に見られる「底辺」の立場と、「保健室登校の常連さんたちと過ごす毎日」とか「最低45回くらいとった赤点」とか、ラストの「みんなから遅れた、1人だけの卒業式」くらい。だからといって、けして退屈はしないけれど。
普段豊島さんの書く物語は、「何でもない毎日の愛おしさ」みたいなものがたくさんつまってる気がするけれど、このエッセイを読んで思い出すのは、「特別でも何でもない私の、どーしょーもないみっともなさ」とでもいうか。そんな自分へ未来の豊島さんが放つ、冷静な洞察&ツッコミがテンポよく繰り出され、その辺りはむしろけっこう笑えるくらい。
むかしの自分を思い出しながら、「ほっぺのあたりが痒くなる」って書いてる豊島さんの姿が目に浮かぶようで、なんだかこっちまで「くくく」って笑ってしまう。
(「保健室登校」のくだりも、似たようなことしてた私はちょっと懐かしかったし。まー私のは保健室でなく完全に「空き部屋登校」で、最初の高校はすったもんだの末、けっきょく辞めてしまったんですが)
けれど、こんな気持ちは何も豊島さんに限ったことではなく。
たぶんほとんどのひとが多かれ少なかれ、似たような思いを抱えてるんじゃないかなって、思う。
だからひとつひとつの何でもないようなエピソードとか、あとがきの豊島さんのこんな言葉だって、けして特別でなく、むしろすごく身近で親しみたっぷりの言葉になる。
読み返すと、こんなにたくさんのひとがやさしくかまってくれたんだなあとびっくりするけれど、当時の私はその幸福がわからないくらい自分にいっぱいいっぱいだった。もちろん、そういう足元の幸せに気付いてくださいなんてメッセージを送りたいわけじゃなくて、私が言いたいのは、こんなに目の前が見えないくらいあっぷあっぷしていても、いつかはどうにかなるってことです。
でも、ここでいくら調子のいいことを書いたって、五年後の私はやっぱり自分の高校時代をよく思っていないかもしれません。状況が悪くなれば、「全然大丈夫じゃねーよ!」と思うこともあるでしょう。それでも、こういう安定した時期に、自分がみじめでしょうがなかった高校時代をまとめられたことは幸福だと思います。
「普通を輝かす達人」(『檸檬のころ』 解説より)、豊島ミホさんの原点は、ここに書かれた地味で、おまけに底辺な高校生活だったのかも。
なんて考えながら読むと、すごく不思議な気持ちがします。
もちろんそんなことは考えずに、1冊のエッセイ集としてもとってもおもしろく読めますので、豊島さん作品未読の方にも、オススメです。
豊島ミホ 『底辺女子高生』 幻冬舎文庫
投稿日:2008-03-18 Tue
![]() | 日傘のお兄さん (新潮文庫 と 17-2) (2007/10) 豊島 ミホ 商品詳細を見る |
可愛いだけじゃない。
女の子のむきだしの想いが胸をしめつける、まぶしく切ない四つの物語。(裏表紙より)
単行本、『日傘のお兄さん』の文庫化に伴い、大幅な加筆修正を加えた新版。
単行本を読んだのはずいぶんまえで、なんともなしに気に入っていたけどこれは文庫にはならんだろーなって思ってたらおもいもかけず文庫化されてて飛びあがって喜んだのです、私。
あーおかえり、なんかまた会えたんだねって感じ。
全4話収録。
あわになる・・・
事故に巻き込まれるという運の悪い死に方で死んでしまった私が、かつて好きだった同級生、タマオちゃんが結婚したことを知り、ふたりの家を訪れるお話。
大人になったタマオちゃん、隣にいるお嫁さん、タマオちゃんをモデルに描いた絵、色鉛筆、もう何にも触れられない手、もうタマオちゃんの目に映らない私。
丁寧語で静かに、淡々と語る私の気持ちが染み込んできて、どうしようもない気持ち(あえて言えば切ない)になる。ラストシーンは静かに泣ける。
日傘のお兄さん・・・
日傘をさしたロリコンお兄さんと私の、逃避行?(←すみません、上手い言葉が見つからないです)
幼稚園児の頃遊んでくれたお兄さんがある日突然迎えに来て、そんでふたりで電車に乗って・・・。
ってありえん!!ってホントにそうなんだけど、これはすんごく好きな話だったりする。
しかしこのお兄さん、単なるロリコンなのかやさしいお兄さんなのか、両方って気がするけどやっぱり私にはよくわからない。けど不思議と好きなんだよなー、この話。
単行本版より良い意味でソフトになった感じ。文庫版のお兄さんのほうが好きです。(どちらにしろダメお兄さんなのは間違いないけど)
すこやかだから・・・
単行本版『すこやかなのぞみ』改題。
すこやかに育つ小学6年のあたしと、折りたたみナイフを持った1個下の転校生、ナツの物語。
マジメな話、これはホントにすこやかな話だなって思う。だからって単純なんて言葉はほど遠いけど。
ハローラジオスター
単行本版『バイバイラジオスター』改題。
都内の大学にすべて落ちて北国の私立大に入学した知世は、魔法の声を持つ影のある先輩、ノブオに出会う。けっきょく最後までノブオを手に入れることができないまま、就活に忙殺される知世が遭遇したのは・・・、というお話。
個人的には『バイバイラジオスター』の方が物語としては好きなのだけど、こちらは今の豊島さんワールド全開って感じで、やっぱり好きな話。
単行本版と文庫版の間に『檸檬のころ』があることを、読んでるとなんとなく意識する。
あとがきによれば、『日傘のお兄さん』は豊島ミホさん最後の作品になるかもしれなかったお話なのだそうです。
ご本人曰く「当然のように売れず、さしたる注目をいただくこともなく終わった」この本にまた会えたのは、ほんとによくわからない、不思議なこと。
ま、うれしかったからそれでいいんですけど。
豊島ミホ 『日傘のお兄さん』 新潮文庫
追記。
>『日傘のお兄さん』の記事に拍手をくださった方
本当に励みになりましたし、喜びのあまりイスから転げ落ちました。(実話)
こんな場所ですが、ふと思い出した時にでも、また立ち寄っていただけるとうれしいです。(^^)v
投稿日:2008-03-09 Sun
![]() | 檸檬のころ (幻冬舎文庫 と 8-2) (2007/02) 豊島 ミホ 商品詳細を見る |
私の高校生活は暗くて無様なものでした。卒業式のとき、もうここに通わなくて済むんだという事実に安心してボロボロ泣いたくらいです。(あとがきより)
そんな豊島ミホさんが、「地味な人なりの青春」をいつか書きたいとおもって書いた1冊。
とある田舎の高校を舞台にした、8つの物語。
タンポポのわたげみたいだね・・・「今日も私はお姫さまを起こせない。けれどもそれは、いつものことだ」。いつからか保健室登校になった友人サトと、「私」こと橘。サトの不在中に、橘の前に現れた、藤山君。――ごめんなさい、私は楽になりたいです。
こんな友達を持てたら、ふたりともしあわせだろうなって思った。
金子商店の夏・・・「けれど。やっぱり何かが違っていたのだ。スムーズに進んでいく奴らと、俺とでは。それを思い知る頃、俺はもう司法試験に三回落ちていた。」たしかに「痛い」話。それでもって、まるきし他人事、というわけじゃない。いつか!って思っても、どうにもならないこと。けれどそれでもって、この話を読んで思えた。
ルパンとレモン・・・「どこでどう間違えたんだろう、と思う」。いつのまにか開いた距離と、もう戻らないという確信。ありきたりかもしれないけれど、こんな気持ちをこんなに丁寧に掬ってくれる話って、そうそうない。
ジュリエット・スター・・・「絶対魔物だよ、あいつ」。恋愛禁止の下宿内で、「間違い」を防ごうと孤軍奮闘する「私」と魔物・珠紀、無愛想・林君。他人事だからいえるけど、こーいう魔物なら私は案外嫌いじゃないです。(好きでもないけど)
ラブソング・・・「ああ、どうしたんだ私」。音楽バカの女の子の恋。ひっちゃかめっちゃかでおかしくて、だけどけっこー切ない話。たくさん切なくなった後で、今度は思いっきり笑えばいい。
担任稼業・・・「教師なんて、本当にむくわれない。これだけやった結果が「ハゲ」「ムカツク」だなんて、うんざりだ」。・・・すみません、私もそんなこと思ってました。全国のむくわれない先生方、本当お疲れ様です。m(__)m
雪の降る町、春に散る花・・・「何でか、ふといろんなことにあきらめがついた」。「私」は離れ離れになる。18年間過ごしたこの家からも、佐々木君からも。卒業式の豊島さんじゃないけど、ボロボロ泣けそうになる。語り尽くされたようなストーリーでも、こんなに切なくするなんてすごい。
「豊島ミホは、ふつうをかがやかす達人である」という解説文に何度もうなづく私。
こんな素敵な作家さんって、そうはいないです。
(エッセイ、「底辺女子高生」を併せて読むことをオススメ。
「檸檬のころ」の原型みたいな、地味で素敵な思い出が、豊島さんのクールな文章で語られています。)
豊島ミホ 『檸檬のころ』 『底辺女子高生』 ともに幻冬舎文庫
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