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月見

Author:月見
マンガと小説と、天野月子さまとCoccoさまの楽曲を何より好む大学生。その日の気分に合わせた本を紹介してます。拍手、コメント、リンク大歓迎。飛びあがって喜びます。

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江國香織 『すきまのおともだちたち』
すきまのおともだちたちすきまのおともだちたち
(2005/06)
江國 香織

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(画像は単行本です。実際に読んだのは集英社文庫版)

「つまりね」
自動車のドアをあけ、お皿をやさしくすわらせると、女の子は言いました。
「つまりあなたは旅人だってことよ。旅人っていうものはね、旅が終わればいやでも帰らなきゃならないの。そんなの、生まれたばかりのへびの赤ちゃんだってわかることよ」


それは、もう随分に前のこと。
若く、溌剌とした女性新聞記者だった私は、仕事の最中に迷子になってしまった。
来たはずの道がなぜだか帰れず、それでも帰ろう帰ろうとやっきになって、たどりついたのは名前もわからない見知らぬ町。
途方に暮れる私がその町で出会ったのは、一人で暮らすちいさな「女の子」とかつてどこかの御邸から旅立ったという「お皿」。
いろいろ試してみて、どうやら当分帰れそうにないと悟った私は、この不思議なふたりの家に「旅人」として、ひとまず泊まらせてもらうことになるのだけれど・・・。
こみねゆらさんのぴったりの挿絵を載せた、極上の寓話。

「ホントに素敵な物語でした」

ってこころの底から思った物語。
「素敵な物語」はうれしいことに本当にたくさんあるけれど、これはなんていうか、しんみりとはかなくて、そのくせきりっとした強みのする、素敵な童話。

しっかり者の「おんなのこ」と、つけつけとおせっかいな「お皿」。
即興の「旅人」となった私は、なんだかわりに合わないような気持ちを抱えたまま、それでもこの不思議なふたりとの毎日を愛おしく感じるようになる。(私だってそうだ)

けれどそうして唐突に訪れたおかしな毎日は、やっぱり唐突に終わる。
そうして唐突に終わった毎日は、ますます唐突に戻ってくる。(あまりに唐突なので「お皿」なんか驚きのあまり割れてしまうのだけれど)

この展開が、断然好きなのだ。
これぞ江國さんの描く童話、って感じがする。
どこをどうしてもつかめないけれど、見失ったと思えばいつのまにか手元に戻ってる。

「世界だもの。世界は確固たるものでなきゃあ」

二度目にこの町に来て(それは最初にこの町に来てもとの町に帰ってから数年後のこと)、「ここは変わらないね」と目を細めた私に「おんなのこ」が言った言葉。

たぶんこちらの世界に住む私たちは、この言葉にかすかな(もしくは大きな)違和感を持ってしまう。
少なくとも、物語中の「私」はそうで、だとしたらどうするか。

新聞記者という仕事柄、私は世界についてもう少しちがう意見を持っていましたが、今ここで口にするつもりはありませんでした。

じつは私はこのシーンが一番好きで、読後もう何度も読み返している。

たぶん「私」のいう「世界についてのもう少しちがう意見」は、こちらの世界に暮らす私も、(もしかすると、今この記事を読んでくださってる方だって)知っているのかもしれない。

でも、知っていても口にはしない。

それはたぶん、変わらない、永遠の住むこの町に遊びたいから。
いつでも会えるわけじゃないともだちを、けしてなくしてしまいたくはないから。

もちろん、こんなの私の勝手な想像。それでもいろいろ思ってそれっぽい理由を並べてみたけれど、こんなのに正解なんて最初からないんだろーな、きっと。

最後に、私の好きなもうひとつの言葉(「おんなのこ」のもの)を抜き出して終わり。
もう何度目、何年かぶりに「すきま」におっこちた中年の「私」に、「おんなのこ」が言った言葉。

「でもね、女の子がお母さんになったり、おじいさんが中年の婦人になったりしたら、おかしいでしょう?猫がカエルになったり、カエルが猫になったりしたら、わけがわからなくなっちゃう」

私はこれから眠るから、運がよければこんな素敵なすきまのおともだちに会えるかもしれないな。
なんてがらにもないことを思ったりしながら、今日はもう寝ます。

オヤスミナサイ。

江國香織 『すきまのおともだちたち』 集英社文庫

江國香織 | 22:43:24 | Trackback(0) | Comments(0)
江國香織 『ホテル カクタス』
ホテルカクタス (集英社文庫)ホテルカクタス (集英社文庫)
(2004/06/17)
江國 香織

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ホテル カクタス、というのが、このアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。


ある街の東のはずれのふるいアパート、ホテル カクタス。
そこでは数字の2と、きゅうりと、帽子と、その他の住人が暮らしている。

数字の2は役場勤め。几帳面な性格で、何でも割り切れないと気が済まない。お酒は飲めず、いつでも手に入るグレープフルーツジュースばかり飲んでいる。
きゅうりは見た目のとおり、ぱきっとまっすぐな若者で、健やかなスポーツマン。けれどあまり物事を深く考えないのが玉に瑕。
帽子は元行商人で、今は無職。ものすごい読書家なのだけれど部屋の掃除をする習慣がない。ほこりまみれの本の山の中でカメを飼い、たまに賭け事に精を出す。

見てのとおり、ここには人間はいない。(途中で何人か出てくるけれど)
けれど読んでると、数字の2、きゅうり、帽子が、いつのまにか当たり前のようにそこにいて、毎日すんなり生活しているから不思議。

2はグレープフルーツのジュースを飲んで役場に出かけ、きゅうりはガソリンスタンドで働いて、さらにアパートの部屋で運動したり、ときには詩人になったり。
そして帽子はうずたかく積み上げられたほこりまみれの本の山でカメに夜食をあげている。

もちろんおとぎ話なんだけれど、これはひとの暮らすおとぎ話。
喜びも可笑しみも哀しみもふくめて、だれかと生活してゆくおとぎ話。
そんなことを感じたときから、私はこの物語をぐんと好きになった気がする。

それは、いつもどおりの夜でした。ウイスキーの匂い、部屋のあかり、自転車の摩擦音。
(友達っていいなあ)
2は思いました。そりゃあ家族は大切です。でも、友達はいつもどおりですし、重要なのは、そのことでした。きゅうりも、帽子も、いま現にここにいるのです。


もちろんそんないとおしい毎日だって、ずっとずっとは続かない。
この物語は一度終わってしまうけれど、またいつか会える日だってやってくるはず。

いろんな思いや切なさを受け止めながら、最後の1ページを読み終えました。

佐々木敦子さんという画家の方が描かれた(たぶんカクタスの)内観と併せて、ぜひ実際に、手にとって味わってみてほしいなって思う作品です。

江國香織 『ホテル カクタス』 集英社文庫

江國香織 | 21:07:39 | Trackback(0) | Comments(0)
江國香織 『つめたいよるに』
つめたいよるに (新潮文庫)つめたいよるに (新潮文庫)
(1996/05)
江國 香織

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デュークが死んだ。
私のデュークが死んでしまった。
(『デューク』より)

飼い犬を失った女性が不思議な男の子と会う不思議な1日 『デューク』他、
デビュー作 『桃子』、はないちもんめ小さな童話賞大賞受賞作『草之丞の話』など、
初期の短編物語21作品を収録した短編集。

子供たちとか、恋人とか夫婦の話が多い。

たとえば、青屋根の窓の『鬼ばばあ』や、おかしくて少し不気味な『夜の子供たち』に、可愛く強かな『子供たちの晩餐』。

蠱惑的な幼女と修行僧の(一種猟奇的な)結末『桃子』、かつての家で口に入れる『さくらんぼパイ』、クリスマスのコンビニでの小さな物語『とくべつな早朝』。

守り続けてきた『草之丞の話』、遠いさよならを告げる『いつか、ずっと昔』、幸福なドアが閉まる『スイート・ラバーズ』や、素敵でおかしな奥さんの『朱塗りの三段重』。

江國香織というひとがひとり凝縮されてるような1冊。
読んでると、根拠もないのにそんなふうに感じる。
不思議でどこか曖昧で、いたずらっぽくて不気味で、時折孤独で温かく、けれど切なく愛おしいような。

そういいつつ、私がとくに大好きなのは『ねぎを刻む』と『コスモスの庭』と、それからもちろん『デューク』なんだけれど。

あと、『スイート・ラバーズ』は婚約者のいる友達に、ちょっと贈りたくなった。

最後に、解説よりこれは、と思った部分(というか最後の2文なのですが)を抜粋。

テーマなどという大仰なものはどうでもいい。江國さんは、ただ自分の好きな懐かしい風景を静かに描いていく。
だから「夏の少し前」の洋子の言葉が胸を打つのである。「私、ずっとながいこと、こんな光にあこがれていたような気がします」。


江國香織 『つめたいよるに』 新潮文庫


江國香織 | 10:39:13 | Trackback(0) | Comments(0)