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江國香織 『落下する夕方』

落下する夕方 (角川文庫)落下する夕方 (角川文庫)
(1999/06)
江國 香織

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そのときの私にはなにもわかっていなかったのだ。
健吾がどんな場所にいるかについて。
華子がどんな場所にいるかについて。
あるいはまた、私自身がどんな場所にいるかについて。


梨香と8年間一緒だった健吾が家を出た。自分よりも好きな女ができたという健吾との別れに浸る間もなく梨香のもとに現れたのは、健吾が好きになった女、華子。
そんな華子が言うところの、「私たち3人にとって、完璧な解決策」として、健吾のいなくなった梨香の部屋に棲むことに。
華子の真意をはかりかねる梨香だったがだれよりも奔放なのにけして邪魔にならない、無口なのに、不思議な存在感を放つ華子の魅力に対峙するうち、この不可思議な日常に慣れきっていく。
愛することも憎むことも逃げることもできず、いつまでも続く3人の奇妙な日常。
その続きは・・・・・・。

これはきついなー・・・と、だれにともなく思いつつ読んでました。
なにがきついのか、だってここに転がってるのは、絶望的な愛情、恋情、そして場所。

恋人を奪われたはずの梨香は感情もうろんなときに訪れてきた華子と暮らしはじめ、健吾はそんな2人の関係に動揺しつつも華子に会いにいけることがうれしくて隠し切れない。
けれど華子は健吾のことをまったく好きになることは今もこれからもなく、それを知っている梨香は、だんだんと傷ついていく健吾を痛みを感じながら見続けるしかない。

「梨香は、平気なのか?」
理解できない、という顔で健吾が訊き、私は正直にうなずいた。
「結構気があうよ、私、華子と」
私たちのテーブルに、四度目の沈黙が訪れた。


それでも、華子の不思議な魅力は、いつしか2人を巻き込んでとりついていく。
とうの本人は、ふらりといなくなったり戻ってきたりしつつ、けしてこちらに気を遣わせない奔放さで梨香の部屋と外との間を行き来する。ときに本人が知らない、そしてきっと永遠に知ることもできないところで、たしかにだれかを傷つけながら。

「私にも信じているものはあるのよ」
カウンターのうしろ、メニューの張り紙あたりをみながら、華子は小さな声で言った。
「そのことを見せたかったの」
「・・・・・・・・・・・・」
私はなにも信じてない。いつだったか絶望的な真実さでそう言った華子のことを思いだした。愛情も友情も、人も自分も信じていない。幸福も不幸も信じていない。


勝手な合点ですが、だから少しわかったような気がしてしまったんです。
華子の奔放さ、奔放なのにけして楽しそうでもなく、魅力と隣り合わせの、ただそこにいるだけの存在感。
梨香だけでなく、自分自身にとっても華子はどこまでも他人で、けれどどこまでも他人ではいられないととっさに痛感して、悪い予感がして。

高校のときに読んだときは、なにがなんだかさっぱりわからないとしか思わなかったけれど。
今はすごく翻弄されるというか、気持ちの奥深くをゆすられた気がします。
江國さんらしい、すごい作品。ここまであっさりと、けれど絶望的に好きになれる華子のようなひとを、殊小説の世界では、他に知りません。

江國香織 『落下する夕方』 角川文庫
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江國香織 『間宮兄弟』

間宮兄弟 (小学館文庫 え 4-1)間宮兄弟 (小学館文庫 え 4-1)
(2007/11/06)
江國 香織

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「だって間宮兄弟を見てごらんよ。いまだに一緒に遊んでるじゃん」

30歳過ぎて仲良く同居してる、フシギな兄弟、間宮兄弟。
ビール会社に勤める兄明信と、小学校職員の弟、徹信。
兄弟そろって「オタク系」と見られ、おのずと女性に縁がなく、
それならと兄弟ふたりで気楽に暮らす毎日に満足しきっていた。
けれど、徹信が同僚の女性教師と明信を知り合わせようとしたところから、
なぜだか兄弟のまわりは急ににぎやかになっていき・・・・・・。

映画にもなった有名本。
こんな兄弟いねーよ!とか思いつつ、
けれどいたら一度会ってみたいなと本気で思う。
ほんのりおだやかなフシギ本。

ただただ兄弟と周囲のひとたちとの交遊をつづったような
シンプルで単調なストーリー。
後半では明信の会社の先輩がもちかけてきたトラブルのせいで
兄弟の仲が一時不穏になるけれど、不穏と言えばそのくらいのことしかない。

そんななかでのキーポイントは、間宮兄弟の恋。
兄は行きつけのビデオ店のアルバイト店員・直美ちゃんに、
弟は離婚がこじれ、どうしようもなくなく孤独(と見えた)人妻に。

根は優しいけれどほんとに不器用な、世にもフシギな同居兄弟の恋の行方ははたして?
というのが、兄弟の平和な暮らし(でももちろん、いいことばかりじゃない)と、
じつはもうひとつの読みどころ。

親しくなれば「めちゃくちゃ人が良い」とわかるのに、
恋愛対象としては「そもそも範疇外、ありえない」男たち。

そんなふたりの、恋心と、毎日のひきこもごも。
散歩、仕事、誕生日、カレーパーティー、ぼったくり、映画、コーヒー牛乳・・・。

のぞいてみれば、「楽しかったような気がする」、
いろんな中身のつまったフシギな時間に出会わせてくれる。

愉快に快適に暮らすのは有意義なことです。たとえ世間から多少「へん」に思われても。
そういう人たちの話を書きたいと思って、『間宮兄弟』を書き始めました。
 
(あとがきより)

この空気は江國香織さんじゃないと出せないと思うし、
だからよけいにこの本は、江國さんの本の中でもダントツで好きな一冊だったりする。

まるで童話。情けなくておかしくて、また遊びに行きたくなる、
おとぎのような独身兄弟の物語。

好きとか嫌いでもなく、思い入れでもなく、最高!というわけでもなく。
ただただじんわり、なんとなくな愛着のある本。
・・・っていうのは、こういう物語のためにある言葉かも。

江國香織 「間宮兄弟」 小学館文庫
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江國香織 『すきまのおともだちたち』

すきまのおともだちたちすきまのおともだちたち
(2005/06)
江國 香織

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(画像は単行本です。実際に読んだのは集英社文庫版)

「つまりね」
自動車のドアをあけ、お皿をやさしくすわらせると、女の子は言いました。
「つまりあなたは旅人だってことよ。旅人っていうものはね、旅が終わればいやでも帰らなきゃならないの。そんなの、生まれたばかりのへびの赤ちゃんだってわかることよ」


それは、もう随分に前のこと。
若く、溌剌とした女性新聞記者だった私は、仕事の最中に迷子になってしまった。
来たはずの道がなぜだか帰れず、それでも帰ろう帰ろうとやっきになって、たどりついたのは名前もわからない見知らぬ町。
途方に暮れる私がその町で出会ったのは、一人で暮らすちいさな「女の子」とかつてどこかの御邸から旅立ったという「お皿」。
いろいろ試してみて、どうやら当分帰れそうにないと悟った私は、この不思議なふたりの家に「旅人」として、ひとまず泊まらせてもらうことになるのだけれど・・・。
こみねゆらさんのぴったりの挿絵を載せた、極上の寓話。

「ホントに素敵な物語でした」

ってこころの底から思った物語。
「素敵な物語」はうれしいことに本当にたくさんあるけれど、これはなんていうか、しんみりとはかなくて、そのくせきりっとした強みのする、素敵な童話。

しっかり者の「おんなのこ」と、つけつけとおせっかいな「お皿」。
即興の「旅人」となった私は、なんだかわりに合わないような気持ちを抱えたまま、それでもこの不思議なふたりとの毎日を愛おしく感じるようになる。(私だってそうだ)

けれどそうして唐突に訪れたおかしな毎日は、やっぱり唐突に終わる。
そうして唐突に終わった毎日は、ますます唐突に戻ってくる。(あまりに唐突なので「お皿」なんか驚きのあまり割れてしまうのだけれど)

この展開が、断然好きなのだ。
これぞ江國さんの描く童話、って感じがする。
どこをどうしてもつかめないけれど、見失ったと思えばいつのまにか手元に戻ってる。

「世界だもの。世界は確固たるものでなきゃあ」

二度目にこの町に来て(それは最初にこの町に来てもとの町に帰ってから数年後のこと)、「ここは変わらないね」と目を細めた私に「おんなのこ」が言った言葉。

たぶんこちらの世界に住む私たちは、この言葉にかすかな(もしくは大きな)違和感を持ってしまう。
少なくとも、物語中の「私」はそうで、だとしたらどうするか。

新聞記者という仕事柄、私は世界についてもう少しちがう意見を持っていましたが、今ここで口にするつもりはありませんでした。

じつは私はこのシーンが一番好きで、読後もう何度も読み返している。

たぶん「私」のいう「世界についてのもう少しちがう意見」は、こちらの世界に暮らす私も、(もしかすると、今この記事を読んでくださってる方だって)知っているのかもしれない。

でも、知っていても口にはしない。

それはたぶん、変わらない、永遠の住むこの町に遊びたいから。
いつでも会えるわけじゃないともだちを、けしてなくしてしまいたくはないから。

もちろん、こんなの私の勝手な想像。それでもいろいろ思ってそれっぽい理由を並べてみたけれど、こんなのに正解なんて最初からないんだろーな、きっと。

最後に、私の好きなもうひとつの言葉(「おんなのこ」のもの)を抜き出して終わり。
もう何度目、何年かぶりに「すきま」におっこちた中年の「私」に、「おんなのこ」が言った言葉。

「でもね、女の子がお母さんになったり、おじいさんが中年の婦人になったりしたら、おかしいでしょう?猫がカエルになったり、カエルが猫になったりしたら、わけがわからなくなっちゃう」

私はこれから眠るから、運がよければこんな素敵なすきまのおともだちに会えるかもしれないな。
なんてがらにもないことを思ったりしながら、今日はもう寝ます。

オヤスミナサイ。

江國香織 『すきまのおともだちたち』 集英社文庫
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江國香織 『ホテル カクタス』

ホテルカクタス (集英社文庫)ホテルカクタス (集英社文庫)
(2004/06/17)
江國 香織

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ホテル カクタス、というのが、このアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。


ある街の東のはずれのふるいアパート、ホテル カクタス。
そこでは数字の2と、きゅうりと、帽子と、その他の住人が暮らしている。

数字の2は役場勤め。几帳面な性格で、何でも割り切れないと気が済まない。お酒は飲めず、いつでも手に入るグレープフルーツジュースばかり飲んでいる。
きゅうりは見た目のとおり、ぱきっとまっすぐな若者で、健やかなスポーツマン。けれどあまり物事を深く考えないのが玉に瑕。
帽子は元行商人で、今は無職。ものすごい読書家なのだけれど部屋の掃除をする習慣がない。ほこりまみれの本の山の中でカメを飼い、たまに賭け事に精を出す。

見てのとおり、ここには人間はいない。(途中で何人か出てくるけれど)
けれど読んでると、数字の2、きゅうり、帽子が、いつのまにか当たり前のようにそこにいて、毎日すんなり生活しているから不思議。

2はグレープフルーツのジュースを飲んで役場に出かけ、きゅうりはガソリンスタンドで働いて、さらにアパートの部屋で運動したり、ときには詩人になったり。
そして帽子はうずたかく積み上げられたほこりまみれの本の山でカメに夜食をあげている。

もちろんおとぎ話なんだけれど、これはひとの暮らすおとぎ話。
喜びも可笑しみも哀しみもふくめて、だれかと生活してゆくおとぎ話。
そんなことを感じたときから、私はこの物語をぐんと好きになった気がする。

それは、いつもどおりの夜でした。ウイスキーの匂い、部屋のあかり、自転車の摩擦音。
(友達っていいなあ)
2は思いました。そりゃあ家族は大切です。でも、友達はいつもどおりですし、重要なのは、そのことでした。きゅうりも、帽子も、いま現にここにいるのです。


もちろんそんないとおしい毎日だって、ずっとずっとは続かない。
この物語は一度終わってしまうけれど、またいつか会える日だってやってくるはず。

いろんな思いや切なさを受け止めながら、最後の1ページを読み終えました。

佐々木敦子さんという画家の方が描かれた(たぶんカクタスの)内観と併せて、ぜひ実際に、手にとって味わってみてほしいなって思う作品です。

江國香織 『ホテル カクタス』 集英社文庫
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江國香織 『つめたいよるに』

つめたいよるに (新潮文庫)つめたいよるに (新潮文庫)
(1996/05)
江國 香織

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デュークが死んだ。
私のデュークが死んでしまった。
(『デューク』より)

飼い犬を失った女性が不思議な男の子と会う不思議な1日 『デューク』他、
デビュー作 『桃子』、はないちもんめ小さな童話賞大賞受賞作『草之丞の話』など、
初期の短編物語21作品を収録した短編集。

子供たちとか、恋人とか夫婦の話が多い。

たとえば、青屋根の窓の『鬼ばばあ』や、おかしくて少し不気味な『夜の子供たち』に、可愛く強かな『子供たちの晩餐』。

蠱惑的な幼女と修行僧の(一種猟奇的な)結末『桃子』、かつての家で口に入れる『さくらんぼパイ』、クリスマスのコンビニでの小さな物語『とくべつな早朝』。

守り続けてきた『草之丞の話』、遠いさよならを告げる『いつか、ずっと昔』、幸福なドアが閉まる『スイート・ラバーズ』や、素敵でおかしな奥さんの『朱塗りの三段重』。

江國香織というひとがひとり凝縮されてるような1冊。
読んでると、根拠もないのにそんなふうに感じる。
不思議でどこか曖昧で、いたずらっぽくて不気味で、時折孤独で温かく、けれど切なく愛おしいような。

そういいつつ、私がとくに大好きなのは『ねぎを刻む』と『コスモスの庭』と、それからもちろん『デューク』なんだけれど。

あと、『スイート・ラバーズ』は婚約者のいる友達に、ちょっと贈りたくなった。

最後に、解説よりこれは、と思った部分(というか最後の2文なのですが)を抜粋。

テーマなどという大仰なものはどうでもいい。江國さんは、ただ自分の好きな懐かしい風景を静かに描いていく。
だから「夏の少し前」の洋子の言葉が胸を打つのである。「私、ずっとながいこと、こんな光にあこがれていたような気がします」。


江國香織 『つめたいよるに』 新潮文庫
プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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