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筒井ともみ 『舌の記憶』

舌の記憶 (新潮文庫 つ 22-2)舌の記憶 (新潮文庫 つ 22-2)
(2007/07)
筒井 ともみ

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それにしても、おにぎりというのはどうしてあんなにもおいしいのだろう。料理は数々あれど手料理が一番なのは明らかだが、その手作りというものがもっとも素直な形として届くのがおにぎりかもしれない。

(「手のひらに抱かれた米」より)

そうそう、そうなんですよねって心の中で何度もうなづいてしまう。
同時に、口の中で今まで何度もほおばった、たくさんのおにぎりの味を思い出している・・・。

春の茹でたけのこに苺ミルク、夏の白玉に熱々の水団。秋の茶碗蒸しに祭りの綿あめ、冬のおでんに微熱の野菜スープ・・・。
幼少の頃、一年を通して口にしてきた数々の食べ物を記憶から掬い上げ、丹念に綴ったエッセイ集。

食べ物についてのエッセイと聞くと、たとえば高峰秀子さんの「台所のオーケストラ」とか、(エッセイではなく小説なのだけれど)杉浦日向子さんの「4時のオヤツ」とか、なんとなくぼやぼやと楽しい感じを、知らず思い浮かべてる。

けれどこの本はちょっとちがう。たしかに食べ物はとてもおいしそうで「今すぐなにか作りたい!」と読んでて何度思ったかわからないくらい。けれどどこかで、危うさにも似た感覚を持ち続けてしまう。
それはたぶん、「おいしく食べること」と同時に「ひとりで生きてゆくこと」について、深く考えてきた筒井さんの記憶が伝わってくるからなのだろう。

神経を深く痛めていた伯母と、軋轢の絶えずアルコール漬けのスポンジのようになっていた伯父。無口で儚げな母親と、食が細く、微熱持ちの幼い「私」。
そんな4人の関係は、一家団欒というものからはおよそ遠いものだったという。
その中で作り食してきた数々の食べ物たちには、遠く静かな記憶が絡んでいる。

寄せ鍋の夕餉、私は小さな手で菜箸を握り、皆の皿に煮えごろの具を選り分けては盛ってあげたのを覚えている。何かしないでは入れなかったのだ。何もせずに何の気を遣わなくても「家族」でいられる安心感がなかったから、せっせと皆の皿によそってあげたのだ。 (「寄せ鍋嫌い」より)

けれどそれはたとえば、危うくはあるけれども「もの哀しい」とか「緊張を孕んだ」といった暗さとは程遠い。
たぶんそれは、おっとりとした母にはまかせられないからと手ずから水団の団子をつくり、四歳になったばかりのころに行った鶏屋で「心臓と砂肝もお願いします」と頼むような、「食べ物をおいしく」、そのことにだけはけして妥協しないという、強く健やかな心根が(筒井さん自身にも、そしてもちろんこの本にも)生きつづけているからなんじゃないかと思う。

私はいつも書き出しは「その本を一番よく表してて、そして何より私自身が好きになった一文」から始めることにしているのだけれど、今回は本当に大変だった。

なにせ、選択肢があまりに多すぎるから。それは好きというより「魅力的」といったほうがいいのだけれど、とにかく「この文から書き出したい!」と思うような一文が多すぎる。
というわけで、最後にもう一部分引用。
わたしは何度読み返しても、この文章を読むのが一番好きだったので。

台所からはおでんの暖ったかくていい匂いが漂っている。私は腕によりをかけて芥子を溶く。上手に溶きあがった芥子を伯母たちの鼻先へと持っていく。これが私の楽しみなのだ。すると伯母も母も、家の中ではめっぽう無口な伯父までもが、毎回毎回ちゃんと匂いを嗅いで「うぉー、辛いねぇ」と歓声を上げてくれる。これだけ辛ければおでんがおいしく食べられるぞという意味合いだ。 (「芥子とかせりゃ」より)

ことにエッセイ集などはさっさと手早く読んでしまう私なのだけれど、この本だけはじっくりと、それこそ味わうように読み進めながら、亡くなった祖母が揚げてくれた野菜の天ぷらと、祖母の笑顔を思い出していた。

舌の記憶を、ちょっと探ってみてください。

筒井ともみ 『舌の記憶』 新潮文庫
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藤野千夜 志村貴子 『ルート225』

ルート225 (シリウスコミックス)ルート225 (シリウスコミックス)
(2008/04/23)
志村 貴子、藤野 千夜 他

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だからって 今 しゃべったママが 家にいないなんて誰が思う?

物言いが可愛くないといわれる姉エリ子と、シャツに落書きされて公園にいる弟ダイゴ。

「帰るのがめんどうになっちゃった」ダイゴを公園に迎えにいった帰り道。

そこはたしかにいつも見慣れた、住み慣れた町の中。けれど、なにかがおかしい。
いつもの公園も国道も郵便局もあるし、目に入る表札の名前はぜんぶ見覚えがある。
けれどそこにはないはずの海があって、いないはずのクラスメートがいて、けれどいつまでたっても「家」にたどり着けない。
けれど公園の公衆電話から電話をすれば家につながって、ちゃんとママにしかられた。

そうしてやっと家に帰り着いてみれば、そこにいるはずのパパとママがどこにもいなかった。

藤野千夜さんの原作小説を、『放浪息子』でおなじみ(?)の志村貴子さんがコミカライズしたという、すんごく豪華な1冊。
主人公エリ子が『放浪息子』の千葉さんに、ついでにダイゴが二鳥くんにすんごく似てる気がしてちょっとうれしく楽しくなったのだけれど、まあそれは置いといて。

あからさまに「異常な世界」に迷い込んだ、というわけではけしてない。

パパとママがいない以外は、クラスメートも近所のひともおじ夫婦だってふつうにいる。
けれど生きているはずの犬がいなかったり、昨日話したはずの友人がそのことを知らないと言ったり、あこがれの野球選手がちょっと太っていたり。

今までいた世界とやっぱりちょっとずれてる、ちょっとヘンテコな世界。
そうこうするうち、やがてダイゴが考えつく。

A → B → A”

Aはうちのある場所 Bは昨日海に出た場所

それでなんとかAに帰ってきたと思ってて でもそれAによく似たAダッシュなんじゃないかって 


いつになったら、そしてどうすればAに帰れるのだろう。
戸惑うふたりにはおかまいなしで、この世界はまるでいつもどおりにのんびり平和に過ぎてゆく。
もちろんホラーじゃないけれど、血飛沫飛び散るようなホラーよりもある意味もっとこわい。

はたしてエリ子とダイゴはもとの世界に戻れるのか。
すべてを煙に巻くようなラストシーンが絶妙。

ずいぶん前に原作を読んでいたんだけれど、志村貴子さんの描くマンガがもとの物語にとっても合ってると思う。
私的には素敵な本だと思います。買ってよかったです。

藤野千夜 志村貴子 『ルート225』 シリウスコミックス
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朱川湊人 『花まんま』

花まんま花まんま
(2005/04/23)
朱川 湊人

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怪しげな神秘は、やはり怪しげな町と共に忘れ去られていって構わないのです。 (「送りん婆」より)

時代は昭和30~40年代。舞台は大阪の下町。どちらにしろ私にとってほとんど縁のない空間なのだけれど、読んでるとはっきりとそこにいる感覚が生まれてくる。
これはその当時子どもだった主人公たちが体験した、不思議な6つの出来事。

トカビの夜・・・
(これが夢ではありませんように)
そう祈りながら、私は深夜、窓の外で踊るトカビを眺めている。

下町にある袋小路の「文化住宅」に移り住んだ幼い私は、チュンジとチェンホという、 朝鮮人のふたりの兄弟に出会った。
周囲の見えない感情に遠ざけられながらも、徐々に交流を深めてゆく私たち。
けれどある日突然、チェンホが死んだ。やがて袋小路に「トカビ」が現れ始めた・・・・・・。

読み始めてすぐ、これはこわい話だって思った。
見えない偏見、聞こえない蔑みに囲まれて死んだ先を考えれば、私に限らず思いつく先は、たいていのひとがいっしょなんじゃないかって思った。

けれど見えないものって、考えてみればそんなものばかりでもないんだった。

妖精生物・・・
「どうだい、こんな生き物、見たことないだろう?」
そう言って男が差し出したガラス壜には、水に漂う、ビニール袋のような不思議な生物がいた。

それは男曰く、クラゲではない。魔法使いが作った、妖精生物だという。
その生物を一度手のひらに乗せた私は、子どもには何とも形容しようがない感覚の虜になってゆき・・・・・・。
やがて訪れる、当たり前だった生活に訪れる、静かな静かな不穏。
その傍らには、いつも妖精生物がいた。

前に読んだ「フクロウ男」の雰囲気に、今回一番近い物語。
不気味なのか不気味でないのかわからない感覚が、たぶん何よりも不気味なんだろうと気付いた。

摩訶不思議・・・
「ええか、アキラ。人生はタコヤキやで」
そんなことを話してくれたおっちゃんは、今は棺桶の中に寝かされている。

そんなおっちゃんの葬式で事件は起こる。
おそらく人生をタコヤキに例え、つまようじを周りの女に例えたおっちゃんの引き起こした、それはなんとも突拍子のない、なんとも頓珍漢な事件だったのだけれど・・・・・・。

ブレイクタイム。
なんてつもりで朱川さんがこの物語を書いたのかどうかは知らないけど、とりあえず私は爆笑させていただきました。

こーいうひとが親類にいたらさぞかし困るんだろーな。
けど周りにこーいうひとがいるっていうのも、たぶんそんなに悪いものじゃないなって思う。

花まんま・・・

しげたきよみ しげたきよみ しげたきよみ
繁田喜代美 繁田喜代美 繁田喜代美

この名を書いたボクの7歳の妹の名前は、「加藤フミ子」という。
目の前にいる、この妹は本当にボクの妹なのか。

「どんな時でも、妹を守ってやらなあかん。それが兄ちゃんちゅうもんなんやからな」
ボクにそう言ったのは、今はもういない父親だった・・・・・・。

これが一番好き、というわけではないけれど、なんとなく、けれどけっこう心に残るような、じんわり好きになった物語。
ボクがだれを守るのか、守るのはだれなのか。
それを決めたのは、ある一日の出来事。

この兄妹にしあわせになってほしいと、心底思った。

送りん婆・・・
「みさ子、あんた、コトダマっちゅうのを知っとるか」

送りん婆。そう呼ばれていたおばさんが耳元で呪文を囁く。それを最後まで聞いた人間は死ぬ。
当時8歳だった私は、おばさんの助手として働き始めた。

大酒と暴力の末に病に倒れた父親、生まれついての障害のために最後まで外にも満足に出られなかった子ども。
おばさんの呪文を聞けば父親はやさしい父親になり、子どもは庭を駆け回り、すぐに命を失くした。
「人殺し!」と叫ぶ声にも、おばさんは動じていないように見えた。

そんなある日、大阪名物どて焼き屋の店で、おばさんは私に話し始めた。
ひとを送ることのできるおばさんが、かつて一度だけ踏み外した「外道」。
一度だけ殺めた、ひとりの男のことを。

もし私がその呪文を知っていたなら、正直どうしていたかはわからない。

凍蝶・・・
『馬鹿にしたらアカンで。蝶は案外、強いんや』

ひとりでいた私にそう教えてくれたのは、18歳のミワさんという女性だった。
毎週水曜日に広大な霊園で繰り返される時間。
私は学校で起きた出来事を話し、ミワさんはそれを聞いて楽しそうに笑う。

また遊ぼうねという約束。
あのとき私は、一番ほしかったそれを確かに手にしたはずだったのだけれど。

今まで読んだ朱川さんの書く物語で、とにかく一番忘れられない物語。

読み方によっては陰惨だとも思う。じっさいに、これはけっして明るく幸せな物語ではない。
けれど蝶は、本当に『案外、強い』ものだと、そう信じた「私」を、私も信じたいと思った。

朱川さんの本を読むのはこれでまだ2冊目だけれど、この作家さんはすごく素敵な作家さんだなって思う。

昭和。大阪。
哀しみ、愛おしさ、懐かしさ。

私が知りもしないはずの感情や場所や時間から。けれどたしかに私はこの物語から、上手くいえないけれど忘れられてもけして忘れられないような、とても大事な物語を描くことができた気がする。

朱川湊人 『花まんま』 文春文庫

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山崎ナオコーラ 『人のセックスを笑うな 』

人のセックスを笑うな (河出文庫)人のセックスを笑うな (河出文庫)
(2006/10/05)
山崎 ナオコーラ

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「けど、楽しいっすよ。自由に描けるし、褒めてもらえるし。わからないとこは他の先生に聞けばいいし」
「うん。そうしなよ」
「先生、足速いですね」
「あのさあ」
「はい」
「私、君のこと好きなんだよ。知ってた?」


19歳のとき、オレはユリと出会った。
そのときオレは美術の専門学校生で、ユリはそのとき39歳の、デッサン講師だった。

かなり短くシンプルなのに、とても不思議で、いつまでも余韻の残る物語。
「虫歯の優しさ」と併せた、2話収録の短編集。

見た目も39歳で、これといって化粧気もない。長い黒髪で、パーマはかかってるけれどほったらかしのぼさぼさ頭。汚れたスモックを着て、いつもニコニコ笑ってた。
ユリは結婚していたのだけれど、ユリとオレはセックスをした。
少しずつ仲良くなりながら、春を迎え、夏を過ごした。

異質とまではいかなくても、オレとユリのような関係なんて、たぶんそうそうあるもんじゃない。
けれど初めて知ったその関係は、どうしても表しようのないような、不思議な気持ちを抱かせた。

恋だとも、愛だとも、名前の付かない、ユリへの愛しさがオレを駆り立てた。、訳もわからず情熱的だった。

ユリの不思議なダンナが現れるまで気づかなかったけれど、ユリとオレの関係は不倫なんだった。
そんな明らかな事柄に私が気づかなかったのは、オレ自身(そしてたぶんユリも)、自分に巣くう気持ちの名前が(もしかしたら最後の最後まで)わからなかったからなのかも。

そうしてやがて訪れる最後のセックスの瞬間も、彼女と最後に会うことになる場所も、過去になってしまってからそうと知れる。
しあわせな結末ではないのだろうけれど、読了後に感じたのは、たとえば後悔だとか、哀しみだとか、そんな後ろ向きの感情ではなく。
むしろそんな気持ちのほど遠い、まっすぐで爽やかな愛おしさがこみ上げてくる気がした。

「虫歯の優しさ」を読んでも思ったのだけれど、ナオコーラさんは別れを別れのまま、ただ哀しいだけで終わらせようとはしない。

「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」

それが正しいことなのかどうかはわからない。
けれどそれはたしかにまっすぐで温かな強さを持つ言葉で、けして幻想だと嗤ったり、そうと信じてはいけない言葉ではないはず。

「人のセックスを笑うな」というタイトルの真意は正直言って私にはわからないけれど、込められているのはたぶん直接的な感情でなく、何かもっとにじむような想いなんじゃないかって気がする。

それが何か。
そんな肝心なことを、2度目を読み終えた私はまだ見つけられないんだけれど。

山崎ナオコーラ 『人のセックスを笑うな 』 河出文庫
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乾くるみ 『イニシエーション・ラブ』

イニシエーション・ラブ (文春文庫 い 66-1)イニシエーション・ラブ (文春文庫 い 66-1)
(2007/04)
乾 くるみ

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望月がその晩、四人目として誰を呼ぶ予定だったのか知らないが、僕はそいつに一生分の感謝を捧げなければならないだろう。
そいつがドタキャンしてくれたおかげで、僕は彼女と出会えたのだから。


見ず知らずのだれかがドタキャンしてくれた合コンの席で、「僕」は彼女に出会った。
男の子みたいなショートカットに、いつもニコニコとしているような顔立ちは、ファニーフェイスとでも言うのか。美人ではないけれどとにかく愛嬌のある彼女、「成岡繭子」に、「僕」は初めて、一目惚れしてしまったのだ。
ところがおそろしく奥手の「僕」は、そんな彼女になかなか近づくことが出来ない。けれど待ち望んだ瞬間は、ある日唐突にやってきて・・・・・・。
ありふれた青春(恋愛)小説かと思えば、最後の2行でまったくちがう物語に変貌する、「必ず二回読みたくなる」極上のミステリー小説。

前後編にわかれているのだけれど、どちらも「僕」と「マユ」の恋物語。
知らないひと同士が知り合って好き合って、やがて幸せの絶頂を迎えたり、ときに不穏な気配をただよわせたり、決定的な出来事が起こったり。
それはたしかに「甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説」(裏表紙より)。

なんだけれど、ずっと読んでるとはっきり言って退屈だった。
本人たちにしてみれば大事なんだろーけれど、所詮は他人事。とりたてて見せ場となるような展開もなければ、特に何かを考えさせられる、というような場面もない。
恋人同士のふたりが、ときどき崩れそうになりながらも仲良く過ごすっていう、ありふれていて単調な物語が終盤まで延々と続く。(じっさいには終盤で、ふたりの間にある決定的な出来事が起こるのだけれど、それだって「型どおりの展開」の範囲内だと思う。)

ラスト2行ラスト2行って、今さら何を変貌させるっていうのさ?
あんまり単調なので、ついついそんな愚痴も言いたくなってくるけれど、それでも「普通の恋愛小説」とわりきって読んでしまえばそこそこおもしろいので、ちびちびと読み進める。

そんな中、ついに「ラストから2行」に到達。

一瞬、何がなんだかわかならかった。
混乱する頭でようやく気づいて、あまりの急展開(というか変貌)に「はあああ?!」とか何とか、夜中に叫んでしまった(気がする)。

あわてて始めからからパラパラ読み返してみれば、いたるところに(ときにはかなりあからさまなまでの)伏線が張り巡らされてたと気が付くんだけれど。
私は一度読み終わるまでぜんぜん気づかず、だから最後の2行でほとんどショック状態になっちまったというわけ。やばい、ちょっと悔しい・・・・・・。
でもわからなかったから、そのぶんよけいにこの物語を最後の最後に楽しめたと思う(負け惜しみかもしれないけど)。

絶対なんて言葉はないんだよ・・・・・・。

この言葉は本編中からの抜粋。
結末に直接関わるような言葉ではないのだけれど、でもあまりにも暗示的だと思って、読後読み返してちょっとぞっとした。

ただ、私は繭子のことをそんなに嫌いな女とは思えない。
本編中の繭子がすべて「僕」の視点から語られているせいなのかもしれないけれど、私が「僕」だったら、たぶんこの女を好きになったんだろうなと思う。
この本を「ミステリー小説」と読めるかはどうかは、ド素人の私にはてんでわからないけれど、これってかなりすごい小説だな、っていうのは読み終えたとき心底思った。

いろんなひとに読んでもらって、感想を聞いて回りたくなる本。

というわけで未読の方、ぜひご一読を。そしてついでに感想など聞かせてもらえれば、なんて思います。

乾くるみ 『イニシエーション・ラブ』 文春文庫
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久世番子 『番線―本にまつわるエトセトラ 』

番線―本にまつわるエトセトラ (UNPOCO ESSAY COMICS)番線―本にまつわるエトセトラ (UNPOCO ESSAY COMICS)
(2008/03)
久世 番子

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本を読む人 作る人 売る人 買う人 守る人・・・・・・
どこもかしこも愛に溢れておりました!!


これはすんごくおもしろかった!!

現役書店員にしてマンガ家の久世番子さんが描く、
本が好きで好きでたまらない!そんな愛すべき本好きさんたちの、溢れんばかりの本への想いをつづりにつづった新感覚エッセイコミック。

本好きさんの中には「本の重さで床を歪ませる」のはもちろん、「本の重みで実家の梁にひびを入れてしまった」強者さんまで、私なんか足下にもおよばないよーなお方がたくさん。
まさに桁外れ。学習机と小さな本棚しか持ち合わせてない私とは格がちがう。
うぐぐ、参りました!あっしの負けでございます!!って感じ。(何の勝負だ)

だからといって、そんな「本好きのなかの本好き」さんだけのエピソード本、というわけではけしてなく。
本好きさんなら「そう、そうなんだよ!」ってうなずきたくなるようなエピソードがずらりと、軽快に描かれてる。

♪丈夫な家を建てていっぱいにならない本棚がほしい~。

↑これって、本好きさんのほとんどのひとに共通の願望なんだろうし。(←根拠もないのに半分断定)

いつも臨戦態勢の本棚総合司令部は、今日も脳内で「どの本をどの位置に並べるか」、「満杯の領地に奇襲攻撃をしかけてきた新刊本にどう対処するか」といった(本好きさんにとっては)今世紀最大の超難問に頭をかかえてうなってるんだろうし。

番子さんみたいに「カタカナ名前の登場人物はすべて不受理にしてしまう脳内戸籍係」(よーするにカタカナ名前のキャラが多い物語は読めないっていう、たとえば「嵐が丘」を1ページごとに付録の家系図眺めながら「キャサリンまた出てきたし!ねーあんたはどっちのキャサリンだよ?!」って半ばヤケになりながら、やっとこさ読んでた私みたいなひと)なんてのもたくさんいるんだろーし。

そんな番子さん(本好きさん)のおもしろエピソードも大好きなんだけど、あともうひとつ。
「本に関わるいろんなお仕事をしてるひと」に、番子さんと編集さんで会いに行ったりもする。

写植屋さんや校正さんなんてなじみのない職業から、国立国会図書館の職員さんや国語辞典の編集者さんの知られざるお仕事の数々まで、たんまりご紹介してくれる。
こんなひとたちがこんなかたちで本に関わってるだなーって、素直に感動してしまった。

そんなわけで、本好きさんはもちろんのこと、「本好きで、将来なにか本の仕事に就きたいって思ってるひと」なんかにも断然オススメな本です。

久世番子 『番線―本にまつわるエトセトラ 』 新書館 UNPOKO ESSAY COMICS
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江國香織 『ホテル カクタス』

ホテルカクタス (集英社文庫)ホテルカクタス (集英社文庫)
(2004/06/17)
江國 香織

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ホテル カクタス、というのが、このアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。


ある街の東のはずれのふるいアパート、ホテル カクタス。
そこでは数字の2と、きゅうりと、帽子と、その他の住人が暮らしている。

数字の2は役場勤め。几帳面な性格で、何でも割り切れないと気が済まない。お酒は飲めず、いつでも手に入るグレープフルーツジュースばかり飲んでいる。
きゅうりは見た目のとおり、ぱきっとまっすぐな若者で、健やかなスポーツマン。けれどあまり物事を深く考えないのが玉に瑕。
帽子は元行商人で、今は無職。ものすごい読書家なのだけれど部屋の掃除をする習慣がない。ほこりまみれの本の山の中でカメを飼い、たまに賭け事に精を出す。

見てのとおり、ここには人間はいない。(途中で何人か出てくるけれど)
けれど読んでると、数字の2、きゅうり、帽子が、いつのまにか当たり前のようにそこにいて、毎日すんなり生活しているから不思議。

2はグレープフルーツのジュースを飲んで役場に出かけ、きゅうりはガソリンスタンドで働いて、さらにアパートの部屋で運動したり、ときには詩人になったり。
そして帽子はうずたかく積み上げられたほこりまみれの本の山でカメに夜食をあげている。

もちろんおとぎ話なんだけれど、これはひとの暮らすおとぎ話。
喜びも可笑しみも哀しみもふくめて、だれかと生活してゆくおとぎ話。
そんなことを感じたときから、私はこの物語をぐんと好きになった気がする。

それは、いつもどおりの夜でした。ウイスキーの匂い、部屋のあかり、自転車の摩擦音。
(友達っていいなあ)
2は思いました。そりゃあ家族は大切です。でも、友達はいつもどおりですし、重要なのは、そのことでした。きゅうりも、帽子も、いま現にここにいるのです。


もちろんそんないとおしい毎日だって、ずっとずっとは続かない。
この物語は一度終わってしまうけれど、またいつか会える日だってやってくるはず。

いろんな思いや切なさを受け止めながら、最後の1ページを読み終えました。

佐々木敦子さんという画家の方が描かれた(たぶんカクタスの)内観と併せて、ぜひ実際に、手にとって味わってみてほしいなって思う作品です。

江國香織 『ホテル カクタス』 集英社文庫
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朱川湊人  『都市伝説セピア』

都市伝説セピア (文春文庫)都市伝説セピア (文春文庫)
(2006/04)
朱川 湊人

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「だけど誰もが、ときどき無性に、おばさんの絵が見たくなる。見たくて見たくてたまらなくなる。だから誰もいない真夜中に、こっそり取り出して眺めるのさ」 (「死者恋」より)

正直、気になってはいたけれどあまり期待はせずに読み始めた本。
だけど読み始めたらとまらなかった。ほとんど一気読み。
人間はこんなにも不気味で怖くて。そして哀しい生き物。
5話収録。

アイスマン・・・
二十五年前の夏。精神の安定を欠いて田舎に預けられた「私」。見せ物小屋の前で出会った女の子は、「河童の氷漬け」を見せてくれるという。
案内された場所で「私」が見たのは、醜く太った大男と、数々の奇形写真。そして氷の中に横たわるのは、たしかに「河童」のようだった。
帰りがけ、「またおいで」と男は言った。やがて生まれたおぞましい疑念を振り払うため、「私」は再びその場所を訪れたのだけれど・・・・・・。

物語終盤と、さらにラストシーンで待ち受ける驚きと結末。不気味で、けれど奇妙なうつくしさを感じさせるこの結末が、はたしてハッピーエンドなのかどうか。

昨日公園・・・
それはもう遠い昔の、けれどけして忘れることなどできない記憶。
あのころ少年だった遠藤は、悪友マチを突然の事故で失った。そう、確かに一度、失ったはずだった。
ふたりで遊んだ公園から、繰り返される救いのない土曜日。
5度目の土曜日に、遠藤がくだした決断は・・・・・・。

救いようのない残酷な運命から、何をしてでもマチを救おうとする遠藤。けれどけして報われない。繰り返す土曜日は、まるで無限地獄のよう。「オレンジの種5つ」はすぐそばにあるのに、だれがどんなことをしても逃れられない。

フクロウ男・・・
仲間を探し、仲間以外に出会った人は殺す、戦慄の怪人「フクロウ男」。
送られてきた手紙は、架空の怪人に取り憑かれ、いつしか本物以上に「狂気の怪人フクロウ男」となった、ひとりの男からのものだった。

どこか遠くの物語のように語られる所業は、まさに狂気の沙汰。
架空の怪人を作り上げ、連続殺人にまで手を染めた「フクロウ男」が、「正義感の強い君」にすべてを記した手紙を送った理由。私にはけして笑うことなんてできない。

死者恋・・・
およそ40年前。ひとりの女子中学生の人生を変えた、激しい恋。
けれど少女が恋した相手はもうこの世にはいない。その男性、「朔田公彦」は1冊の本を残して自ら命を絶ったという。
あのひとのすべてを理解しようと絵を描き始めた少女は、やがて公彦に恋するもうひとりの少女、しのぶと出会う。けれどそれは、彼女の想像をはるかに超えた禍々しい愛情で・・・・・・。

これは愛情なんかじゃない。究極的にだれかを所有したいという、人間のおぞましい願望の塊。たぶんだれもわからない。わからないでいてほしい。
ほんとうに最後の最後まで、このおぞましい愛情から逃げられない。

月の石・・・
大勢の乗客をはき出し飲み込み、通勤電車は走り出す。藤田は窓の外を見ずにいられない。線路ぎりぎりに建つ煉瓦色のマンションの窓。
きっと今日もあいつがいる。会社を去った本村が、窓から今日もこちらを見つめている。
窓から見える人影は、いつしか孤独死した母親のそれになり、毎朝藤田を苦しめる。
意を決してそのマンションを訪れた藤田が知った真相は、常識では考えられないような奇怪なものだったのだけれど・・・・・・。

最後のテーマはどうやら「罪悪感」。(あくまで私見ですが)
「良心の呵責」なんて聞こえはいいけれど、藤田のようなひとは単に逃げられないんだと思う。
もちろん、だからこそ人間なんだけれど。

救いようのない物語たちの最後の最後で、ちょっと素敵な終わり方をする物語。

すごい作家さんだなって心底思う。
これってホラー小説かと思ってたけど、ちょっとちがう。
たぶんこれは人間の持ち合わせた、剥がせない裏面の物語。

私はこの本を進んで誰かに勧めるつもりはないし、それどころか読み返したくもない。けれど手放すことも、たぶんできそうにないなと思う。

朱川湊人  『都市伝説セピア 』 文春文庫
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山崎マキコ 『ためらいもイエス』

ためらいもイエス (文春文庫 や 40-1)ためらいもイエス (文春文庫 や 40-1)
(2007/12/06)
山崎 マキコ

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昨日までは徹底無視の気持ちで固まっていた。けれど今日は揺れている。ウナギのおかげで揺れている。わたしの人生、このまんまでいいんだろうか。

(体力をつけんといかん!ウナギでカツ!)と一ヶ月うな重ばかり食べてバリバリ仕事をし、あげく(当然ながら)栄養失調でぶっ倒れ、運ばれた病院で母親に押しつけられた見合いを思い出す三田村奈津美。

そんな奈津美はもうすぐ29歳。そしてバージン。男性とは仕事上のビジネスライクな付き合いしかせず、深い付き合いは後輩のスポーツ系女子、青ちゃんとだけ。
奈津美はそんな日常を、ひどく気に入っていたはずだったのだけれど。

そんな奈津美と、とある3人の男性の距離が、なぜだか急に縮まってしまう。

半ばやけで出席した見合いの席に現れた、意味深で謎めいていて、けれど顔はギンポ(天ぷらだねによくつかわれる魚)によく似たギンポ君(本名は神保)。
いつも黙々とした、どこか影のあるキレ者社員、中野さん。
そしてとにかく元気で、子供のように健やかで元気なスポーツマン、桑田さん。

はたして奈津美は、棒に振った思春期を取りもどせるのか!?

山崎マキコさんの作品はこれで3冊目。
前作「マリモ」や「スナフキン」は、「たはは」と腹を抱えて笑えるおかしな軽さと、「私はどこに行けばいぃ?何をすればいい?」という、(たぶんたいていのひとが抱えてる)祈りにも似た問いかけがまざっておりなされた、本当に素敵な物語。
『ためらいもイエス』はどちらかといえばラブコメの要素がやや強めの物語ですが、今回もそれはやっぱり物語に息づいている。
それはつまり、これ以上にないくらいのおかしさと切なさが、いっしょに詰まっているということ。

元気な後輩、青ちゃんとのやりとりなんか、毎度サイコ―に笑えるし、青ちゃんの奈津美を想う気持ちは本物で(ときどき多少強引だけど)、そんなところも読んでてうれしくなる。その一方。

支配欲の強く自分はすべて正しいと信じて疑わない母親に、傷つけられた奈津美自身、そして姉、妹の、胸が苦しくなるような今だとか。
思いもかけずに、心から楽しんでいたつもりでじつは他人を傷つけていた自分に気づく瞬間とか。
いっそ自分のシアワセは叶わずともあなたには幸せになってほしいと願う。けれどその願いすら届かないと思い知らされる瞬間とか。

奈津美のことなのに、こっちまで胸が痛くなる。

「わたしはね、そのときに何かわかりかけた気がした。でもそれがなんなのか、まだ把握できずにいる」
するとギンポ君は、かるく微笑んだ。
「姫はね、本当の悲しみを知らない」
「悲しみ? 知ってるよ。子どものころから、うんざりするくらい」
「うん、でもね、本当の悲しみは、まだ知らない」


悲しみというもの自体ひどく個人的なもので、そのうえ「本当の悲しみ」なんて、こんなふうに部分的な文章だけ抜き出してもそんなのは伝えきれるものでないと思うのですが、あえて引用。

少なくとも奈津美にとっての「本当の悲しみ」は訪れて。
それでも前を向いて歩いてゆく力を、この物語は貸してくれると思う。
ラストに待つ、これ以上にないハッピーエンドで。
(あとは物語のところどころでギンポ君が奈津美にくれる、難解だけれど心のこもった言葉の数々を、読後何度も思い返して噛みしめたり)

ホントにおかしくて切なくて、こんな言葉じゃ言えないくらい、私にとって素敵な本。

すごくオススメです!

山崎マキコ 『ためらいもイエス』 文春文庫
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岩岡ヒサエ 『オトノハコ 』

オトノハコ (KCデラックス)オトノハコ (KCデラックス)
(2008/03/31)
岩岡 ヒサエ

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「よかった。 みんなで作るんだ。」 (帯より)

「花ボーロ」の中の短編(タイトル忘れた)の続編、姉妹編。
岩岡ヒサエさんのマンガは久々だけど、これもずいぶん好きになった話。

前作はバスケができなくなった鈴木詔子と友人の壇あさみの合唱部入部物語だったけれど(すんげーアバウトな説明ですいません)今回の主人公は「むかし変な声」といわれたことがある、田辺きみ。

「わたしは前に変な声と言われたことがある だから 合唱部に入りたいと思っても遠くに感じてた」

そんなきみがある日合唱部のミニコンサートを聴いて、周りのススメもあってけっきょく入部することに。
部員はきみを入れても5名、それどころか来年から「合唱愛好会」に格下げされるという弱小部なのだけれど、押しも勢いもとにかくすごい林部長率いる弱小合唱部は、全国放送の合唱コンクール優勝を目指すことに。

ぼわぼわのピアニスト「ホトケ先輩」やジャンピング指揮者「コーイチ先輩」、毒舌だけど実力派の新入部員「山根ユウ」も加わり、下手くそながらもずんずん前進する合唱部だったのだけれど・・・・・・。

私は合唱部にいたこともないし友達にも合唱してるひとはいなかったけれど、合唱って良いなーと思ってしまった。

パワー全開の林先輩や、ほんのりやさしいホトケ先輩やくるくる回るコーイチ先輩の思いとか、思うようにいかないこわさとか、不安とか、ときには隠れた恋心とか。

いろんな思いや感情をつたって、いつしかできあがってくのはひとつの歌声。

第一に評価されるのはやっぱり技術なんだろうけど、それでもこころもちっていうか。
そーいうものが、読んでると心地よくしみこんでくる。

「ホントに気持ちいい ずっとこのメンバーで歌えたらいいのに ずーっと 続けばいいのに」

そうして作ったいろんなものは、いつか架け橋にだってなる。

弱小だけどまたとないサイコーの居場所。ずっとここでみんなと歌ってたいって、キャラクターでもない私までいっしょに思えるくらい。なんかちょっとだけ、勇気がでてくる。

岩岡ヒサエ 『オトノハコ 』 講談社 IKKI COMIX
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加納朋子 『ささら さや』

ささらさや (幻冬舎文庫)ささらさや (幻冬舎文庫)
(2004/04)
加納 朋子

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「馬鹿っサヤ。おまえがそんなに馬鹿だから・・・・・・そんなに弱くて頼りなくて馬鹿だから、俺は成仏できないんだぞ」

突然の事故で夫を失ったサヤ。残されたのは、まだ首もすわらない赤ん坊のユウスケだけ。
ユウスケを養子にしてくれと迫る夫の親族から逃れ、サヤは名も知らない田舎町、「佐々良」へと移り住むことに。
けれど移り住んだ町、佐々良では不思議な事件が次々と起こる。
消えてしまったおあばさん、一泊した旅館での怪現象、宅配便で送られてきたのに、なぜか空っぽの箱、姿の見えない子ども、何かを待っている老年の女性。
困り果てるサヤを助けにきてくれたのは、つかのま他人の姿を借りて戻ってきた夫だった。
姿亡き夫や、佐々良の町で出会ったひとたちと過ごす時間で、少しずつサヤは立ち直ってゆく。
けれどある夜、高熱を出したユウスケが誘拐されてしまい・・・・・・。

もう何度も読んでるんだけど、読むたんびにぼろぼろとみっともないくらい泣けてしまう物語。
お涙頂戴の物語に見えるんだけど、素朴で極上で、素敵な気持ちのいっぱいつまった物語。

だれかをこころの底から愛して、ときに守りたいと強く想うこと。 

もし必要なら、敵を引き裂く爪を持て。その喉笛に食らいつく、牙を持て。

甘ったれな弱虫だと、自分でも自覚してたサヤがいつのまにかこんなに強くなっていた。
それを見届けた旦那さんの気持ち。
べタかもしんない。でも思い出すだけで泣けてくる。
この本につまってるのは、いつでもどこでもだれかを愛する気持ち。
あったかいんだ。なんでこんなにあったかいんだろ?

宝物。これはホントに、宝物の本。

加納朋子 『ささら さや』 幻冬舎文庫
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石黒正数 『ネムルバカ』

ネムルバカ (リュウコミックス) (リュウコミックス)ネムルバカ (リュウコミックス) (リュウコミックス)
(2008/03/19)
石黒 正数

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「この歳になって目標がブレてない先輩が 運が良いんですよ」

どっかの大学の女子寮。そこでルームシェアしてる、「先輩」であるバンド女の鯨井ルカ。そして「後輩」である、特技も夢も、これといってない女子大生の入巣柚実。

この1冊、「モラトリアム」だとかそんな言葉一言で表せる物語なのか。
もちろんそれは間違いではけしてないと思うし、端的にまとめるならたしかにそういう物語なんだろうけれど。

でも、この本はちょっとそれだけじゃない。

バンド活動に明け暮れメジャーデビューを目指す鯨井から見れば、「目的もなくただ毎日生きてる」、柚実たち後輩軍団が得体の知れない化け物に見える。
反対に化け物サイドの後輩たちから見れば「音楽で食っていこうとしてる先輩」のほうが宇宙人に見える。

実際にお互いが化け物と宇宙人に見えてる、その感覚。
リアルを通り越した現実すぎる現実を不意に叩き込まれたみたいで、それでもこわいくらいにのぞき込んでしまう。
もしかすると、「大学生」って身分は、そーいうこわさと一番近い場所かもしれない。もちろん、私が今じっさいに大学生だからそうと感じるのかもしれないのだけれど。

「なんとなく自分で分かってて努力するのシンドイじゃないですか」

そう言った化け物後輩を鯨井は本気でぶん殴るけど、殴った理由は単なる嫌悪だけ?(なんてあさましい深読みをしてしまう、したくなる私も、鯨井から見れば化け物サイドなのか)

化け物。宇宙人。目的のあるひとと、ないひと。才能のあるひと、ないひと。何かするひと、しないひと。

そんな対立してるように見える言葉ってもちろん実際反対の言葉なんだけど、いったいこいつらどれだけ反対方向向けてるんだろ。なんて読んで本気で考え込んでしまった。

ついでに、ラストシーンが嫌になるくらい好きになってしまった。それはつまり、鯨井の場合では「意外にやわらかかった」壁の行方。
鯨井が柚実に言った最後の言葉はなんだったんだろ・・・。

ぐちゃぐちゃえらそうなこと書いてしまったけど、私はこの本に確実に惚れ込んでる。

ちなみにネムルバカ → 眠るバカ → それは月見、ではありません。
・・・・・・・たぶん、きっと、おそらく、たぶん。(否定しきれない私)

石黒正数 『ネムルバカ』 リュウコミックス
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よしながふみ 『きのう何食べた?(1)』(~続刊)

きのう何食べた? 1 (1) (モーニングKC)きのう何食べた? 1 (1) (モーニングKC)
(2007/11/22)
よしなが ふみ

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「ねえねえ 昨日の夕飯何食べた?」

某法律事務所での何気ない問いかけ。それに対する弁護士、筧史郎の答え。

「小松菜とねぎとわかめとあぶらあげのみそ汁と 長芋と明太子を二杯酢で和えてわさびとのりをのっけてやつと 大根と鶏手羽先を甘辛く煮たのとブロッコリーのおかかあえ それと白いメシ つっても発芽玄米が1/3入ってるけど 以上!」

すげえ!! 私なんか料理と言えばみそ汁と、せーぜー肉じゃがくらいしか作れねーのに!!(←どーでもいい)

43歳にして美貌(←周囲には「ハンサムすぎて気持ち悪い」と意外に不評)の弁護士、筧史郎さん。
そして2歳年下の、美容師の矢吹賢一さん。恋人同士のふたりのほのぼの同居ライフ、そしてなにより筧さんお手製の、見てるだけでお腹の空きそうな絶品!食事風景をメインに描いた物語。

恋人同士の男性が主人公なのだけれど、メインはそんなふたりの関係でなくあくまでおいしそーな食事、筧さんがささっと手早くつくる料理の調理過程。(←これがミソ)

ふかふかとみりんとしょうゆのいい匂いがする煮浸し、炊き込みご飯、たけのことがんもとこんにゃくの煮物とか、いわしの梅煮に甘辛のナスの中華煮込みとか。
ときには名残のいちごで、甘酸っぱい絶品ジャムなんかもつくったりする。

あんまりおいしそうだから、ついついいちいち『美味しそうだな~(感嘆)』ってつぶやいてしまう。
ついでによだれもぼたぼた落としてしまう。(← 汚ねーよ!! ていうかこれはさすがにウソです。品が無くてすみません)

完成品はもちろんだけど、たとえば材料だとか下ごしらえとか、くつくつ煮込む場面とか。そーいう料理する手順が、ほんとうに細かく丁寧に、なによりすんごく美味しそうに描かれてて、見てるだけでなにかおいしいもの(ちなみに私は煮物)が食べたくなる。

そんな食べたくてしかたなくなるような、素敵すぎる料理描写もそうだけど、暮らしとか生活ってのがもうひとつのテーマという感じがする。

きちんと食べて、味わって、そして毎日あわただしくもしあわせに暮らしてゆく。その繰り返し。

読んでると、そーいうことの大切さにも気づかされるような気がする。
ぐつぐつ、ことこと。あーなんかいい匂いがしてきそう。

これはめちゃくちゃオススメ! 未読の方、ぜひ読んでみてください。

よしながふみ 『きのう何食べた?(1)』 モーニングKC
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石井睦美 『群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に 』

群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に (ピュアフル文庫 い 1-2)群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に (ピュアフル文庫 い 1-2)
(2007/11)
石井 睦美

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だってそれは、宣言なんてしなくたって、忘れようとしなくたって、忘れたりするはずのないことだから。
でもわたしは、じぶんの人生でいろんなことー忘れたかった嫌なことを望みどおりに忘れるかわりに、ほんとうは覚えていたかった楽しいことをも、ずいぶんと忘れてしまったように思うから。


卵と小麦粉それからマドレーヌ」の姉妹版、というか続編。
未読の方は、先に前作を読むことをオススメします。
(ちなみに今回の主人公は、菜穂から亜矢にバトンタッチされてます)

13歳だった菜穂や亜矢は16歳の高校生になっていて、「すこぶる平和な学校生活」を送っていた。
そんなある日、亜矢は散歩の途中、小学校時代の同級生だった安藤くんに再会する。
それが菜穂曰く「がつんとくる」、亜矢曰く「宿命的な」恋の瞬間なのかわからないまま、どうやらだんだん安藤くんを好きになってゆく亜矢だったのだけれど・・・・・・。

「ピュアフル文庫」だけあって、一見かなりピュアな恋物語。
けれど前作を読んだ方は感づくとおり、亜矢の物語はピュアだけではけして済ませられない、そんな側面をいくつか持ってる。
たとえば、いっそすべて忘れてしまいたいような過去に、痛む指。寄り添いたいけど不安定な母親に、月に一度会うやさしい父親。

状況や形態はちがえど亜矢と同じような過去がある私は、いちいち亜矢の気持ち(というより考えること)にシンクロしそうになる。だからその後、亜矢が続ける想いにけっこう勇気づけられたりする。

安藤くんもいまごろごはんを食べているのだろう。小学校時代の同級生たちといっしょに。ことによると、わたしの話が出るかもしれない。もちろん喜ばしい噂話なんかじゃない。でも、そうだとしたって、それがなんだろう。わたしはいまのわたしでしかない。もちろん、いまのわたしはあのときのことがあったわたしだ。あのときのことがなかったら、いまとはべつのわたしになっていたかもしれない。

終盤。ところどころで不穏な空気が顔を出しながらも、最後は温かなハッピーエンド。
亜矢が感じた温かみが、文章を通して伝わるようで、私はその瞬間がとても好きになってしまった。
たぶん亜矢はうれしそうに笑ってて、だから私もガラにもなくちょいとうれしくなったりする。
言ってみればおとぎ話の他人事なのに、私もいつか夕焼けを持って帰りたくなる。
そーいう瞬間が、本のちからなのかも。

たままど(←前作。勝手に略称)も好きなんだけど、私はこちらのほうが好きです。

石井睦美 『群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に』 ピュアフル文庫
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川上弘美 『古道具中野商店』

古道具中野商店 (新潮文庫 か 35-7)古道具中野商店 (新潮文庫 か 35-7)
(2008/02)
川上 弘美

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こうやって死ぬまでの一生、不安になったり茫然としたりして過ごしてゆくのかと思うと、今すぐ地面に寝そべってぐうぐう眠ってしまいたいくらい、気が重くなった。でもそれでもタケオが好きだった。好きをつきつめるとからっぽな世界に行ってしまうんだな。わたしはぼんやり思った。

今までのところ、私の中の「川上さんベスト作品!」はセンセイの鞄だったのです。
けども、こちらもすんごくよかった。骨董品じゃなくて古道具、なところが川上さんっぽい。
とにかくものすごく好きだな、こんな話。

東京の西の近郊のどこかの町にある古道具屋「中野商店」。
「だからさあ」を連発する中年店主の中野さん、その姉貴でゲージュツカ(どうやら人形作家さんのよう)のマサヨさん、無味(←解説より。すんげー良い表現なので引用)なバイト店員、タケオ。そして同じくバイト店員の「わたし」。

基本このメンバーが主要で、メインはたぶん無味で人間不信なタケオと「わたし」の冷戦じみた不穏を含めたたゆたうよーな気持ちのやりとりなんだけど、そのうち中野さんの「銀行」(←なぜかここでは「愛人」の意)サキ子さんがところどころ加わったり、よくわからないお客の田所とかマサヨさんの恋人丸山がちょこちょこ出てきて、ときどき一悶着あったりもする。

中身を出さないタケオとそんなタケオにいらつく「わたし」とか、中野さんとサキ子さんの不穏だとか、ときどきどきっとするよーな緊張を孕んだりしながらも、基本はけっこうだらだらした物語。
売る、買う(引き取る)、市に行く、食べる、ひとが来る。
ものすごく端折ってしまうと、この一文で説明できるくらいだらだらと単調。
でもこの単調ていうかだらだら感がくせになる。ずっと浸っていたいって心底思ってしまう。
夏場なんかにだらだらしながら読んだりするといいかもしれない。

あと、終わりのほうの展開っていうか構成っていうか。とにかく終わりのほうが好き。
あははわかったから、どーかどーか不滅でいてくれよって思う。

そーいえば解説でちらりと触れられてましたけど、川上さんの弟さんは骨董品屋さんだそうです。

ついでに「たゆたう」って言葉はたぶん川上さんの本のどれかを読んでて見知った言葉なんですが、これってそのまま川上さんの本の代名詞にだってなれるけっこー地味だけど素敵な言葉だと思う。

いろんなところで、私はどんどん川上さんの本を好きになってゆく気がする。

川上弘美 『古道具中野商店』 新潮文庫
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こうの史代 『街角花だより』

街角花だより (アクションコミックス)街角花だより (アクションコミックス)
(2007/03/12)
こうの 史代

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1つの花に想いを託せば、新しい人生までも見えてくる・・・
花を心から愛している花屋の店長と店を訪れる客たちのハートフル・ストーリー。(帯より)

久々にこうの史代さん作品の紹介。
wiki読んでて知ったんだけど、これ(街角)がデビュー作だたんですね。
「さんさん録」や「こっこさん」みたくほのぼのしたのも好きですが、
こーいうちょっと遊び心?ちょっとわるふざけ?じみた物語も好きです。
4話収録。(うち2話、街角花だよりの「日和版」「明石版」)

街角花だより(日和、明石版)・・・

花屋の店長、日和うららさんのもとへ、不動産会社の清川凛さんが家賃の取り立てに来たところから物語はスタート。
現金代わりに受け取る手はずだったコスモスの(500年前の)鉢をうららさん、凛さんがうっかり割ってしまったことから凛さんは会社をクビになり、うらら店長の店で働くことに。
最初は何となくつんけんしてた凛さんも、ぼわーっととぼけたうらら店長の店で(うらら店長からの、妙に熱い視線を受けながら)ざくざく働き、そのうち花やお客を通していろいろなことに触れてゆく・・・・・・という、おおまかに言えばこんな感じの話。(いいのかこんな説明で・・・)
 
ちなみに「明石版」では、店長のめちゃくちゃ意外な素顔(?)が判明!

俺様!・・・
町の小さな本屋でバイトしてる小川俺様くんはうだつのあがらない眼鏡男子。
そんな俺様が、店にやってきた年上(なのか?)の女性に恋をした。
好きな女性に見てもらおうと心機一転、仕事に精を出す俺様だったんだけれど・・・。

願いのすべて・・・
犬のノンがサンタクロースにお願いしたこと。
それは人間の女の子になって、大好きな秀さん(飼い主)と暮らすこと。
そうしてノンの願いは叶った。けれど正体がばれたらもとのノンに戻ってしまう。
ばれないように、けれど大胆に秀さんに接近するノン。
そんなノンは、姿形は完全に人間だけれど犬の習慣はそのまま。
そんなこんなで、実際は思ったようにはいかなくて・・・。

「願いのすべて」はもちろん、収録作品すべてに言えることなんだと思うけれど。

こうのさんの作品って単一色じゃない。

たとえば「可愛い」とか「心温まる」ってだけの話にしないで、ところどころでさりげなく、読んでるひとをく「くくくっ」って笑わせてくれる。←(個人的には、日和店長の凛さんへの「熱い視線」が代表格)

キャラクターにしろ、日和店長はぼんやり天然キャラかと思えば「案外キレ者?」ともとれるし、凛さんは凛さんで「つっけんどんなぐーたら+ちょいとナルシスト風」女かと思えば案外純真じみたところもあり?と思わせたり。(もちろん、さりげなく)

劇的な展開もすんごくドラマチックな展開もないのだけれど(「願いのすべて」ですら、けっこーコメディタッチで描かれてるし)、のんびり読んでくすくす笑って、そのうちじんわりなんか暖まる気がする。そんで読んだ後、ちょっと目立つところにさりげなーく立てかけておいて、「この本ちょっと良かったよー」ってちょっと小声でつぶやきたいような、そんな本。

よくわからない? まー物は試し。 
まず一度、ちょいと読んでみてくださいな。
意外とね、気に入ると思いますよ。

こうの史代 『街角花だより』 アクションコミックス
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桜庭一樹 杉基イクラ 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(上 下巻)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 上 (1)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 上 (1)
(2008/03/08)
桜庭 一樹

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「好きって絶望だよね」
「生き残った子だけが、大人になる」 (上下巻帯より)

桜庭一樹さん作品をいつか読もうと思ってて、ちょうどコミック化されたというので即買いしてみた。
杉基イクラさんの画と併せて、なんて世界観。こんなの、初めてかもしれない。

現実を生き抜くための術、「実弾」(早く大人になること)を求める山田なぎさ。
世の中にはなんの力も実態もない空想的弾丸、「砂糖菓子の弾丸」を撃ちたい海野藻屑。

山田なぎさは「実弾」を手にするため陸上自衛隊への入隊を望んでいる。
海野藻屑は自らを「人魚」と言い、「一ヶ月後の大嵐までに、ほんとの友達を探しに来た」となぎさに告げる。

「一ヶ月後の大嵐」。一日一日が過ぎていく中、徐々に山田なぎさが知る、藻屑の姿。そして徐々に姿を見せ始める、藻屑の傍の狂気。

「人魚の汚染」の本当の意味は、「好き」という絶望でしかなかったのか。

私なんかには想像つかない。

桜庭一樹 杉基イクラ 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(上 下巻) 富士見書房
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川上弘美 『おめでとう』

おめでとう (文春文庫 か 21-5)おめでとう (文春文庫 か 21-5)
(2007/12/06)
川上 弘美

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「朝に生まれた子供はしあわせになるっていう言い伝えを聞いたことがあるよ」竹雄は言った。
「竹雄は、朝に生まれたの」
「いや、夜遅く、らしい」
「それなら夜の子供もしあわせになると思うよ」
「そうだといいね」
 (「夜の子供」より)

束の間の逢瀬だとか、「うらめしい」ととりついた気弱な幽霊だとか、どこまでもゆっくりと流れてゆく川だとか、桜の樹のうろに住んでる恋人とか、「西暦三千年一月一日のわたしたちへ」だとか。
川上さんの書く、「いつか別れる私たちのこの一瞬をいとおしむ短篇集」(裏表紙より)。

12篇収録。今回は、中でもとくに好きだなーと思った5編をご紹介。

いまだ覚めず・・・
十年ぶりに、「あたし」はタマオさんに会いに三島へ行く。
いつしか接吻することをためらうようになり、タマヨさんからもうあなたと二人で会わないと言われた。
タマヨさんの家の庭には、大小の鳩の入った大きな籠があった。

どうにもこうにも・・・
去年の七月から、気弱な幽霊、モモイさんに憑りつかれている「私」。
モモイさんは「いのうえ うらめしい」といいながら出てきて、ちょうど井上と縁があった私に憑りついたのだった。
あるときモモイさんの「幽霊的能力の行使」(=強要)により、私とモモイさんは井上に(けっこーささやかな)復讐をすることになったのだけれど・・・。

ぽたん・・・
日曜日ごとに飼っているメンドリを公園に散歩させにくるミカミさんを、日曜日の夕刻、約束したわけでもないわたしは待っている。
週に一度、雨天中止。そういう逢瀬、ともいえなくもなく。

・・・
一郎がわたしの部屋に行くことなんてほとんどない。
くさむらで食料を広げていると、「酒忘れた、しまったなあ」といいながらさっさと一郎はコンビニに行ってしまう。わたしを残して。鴫が何羽か、浅瀬を歩いている。

ばか・・・
男が「このおまま死んでしまいたい」と、せつなげに言う。何故なのかはわからない。
藍生は久しぶりに、線路の上を歩くことにした。

いつもどおり、ぼわぼわとして、つかみようのない物語たちが集まってる。

物語だけでなく、登場する人間やそれ以外だってぼわぼわしててつかめない。
庭で籠に入った大小の鳩を好きでもないのに飼っているタマヨさんとか、わざわざ化けて出てきて「復讐する」と言いながらも、ちまちました嫌がらせしか思いつけない幽霊のモモイさんとか。
(そんな中で「天上大風」の「私」はとっても論理的で、あまつさえその論理的思考を実際に実生活に完璧に敷衍できている。けれどもやっぱりつかめない)

ぼわぼわぼわぼわしたまま、読み終えてみると不思議なまでにぼわぼわした、なんともいえないようないとおしみがあふれ出してくるような気がする。

なんか「ぼわぼわ」言ってるだけでちっともまともな感想にならない。
書こうとしても、この感覚を私の知ってる少ない言葉でどうあらわせばいいのか、見当もつかない。
とっても「ぼわぼわ」してて、私はこの本とっても好きなのだけれど。

どなたか上手い感想文があれば、教えてください。(白旗)

ちなみに12番目、最後の物語「おめでとう」は、とてもせつなく、物悲しくなる話。

(ところで文春文庫版の解説は栗田有起さんでした。なんて豪華。)

川上弘美 『おめでとう』 文春文庫 新潮文庫
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奥田英朗 『空中ブランコ』

空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)
(2008/01/10)
奥田 英朗

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ひとつ深呼吸し、ドアをノックした。すると中から「いらっしゃーい」という場違いに明るい声が聞こえた。そこには白衣を着た太った男がいて、一人がけのソファに胡座をかいていた。(「空中サーカス」)

とんでも名医?それともただの変態ヤブ医者? 超ヘンテコ精神科医、伊良部一郎シリーズ第2段にして、第131回直木賞受賞作。5話収録。

伊良部節炸裂! 今回もさんざん笑わせていただきました。(^^)v
まずは手短に、各話のあらすじ紹介。

空中ブランコ・・・
「まだまだ自分は演劇部のエースだ。 この座を人に譲ることはできない」。
けれど突然成功できなくなってしまった、サーカスの空中ブランコ乗り、公平。
これは自分のせいじゃない、周囲のせいか、完全な嫌がらせだと公平は警戒するが・・・。

ハリネズミ・・・
紀尾井一家の若頭、猪野誠司は先端恐怖症。
公園のイラン人を買収してまで強引に注射を打つ伊良部の荒治療(趣味?)の効果か徐々に先端への恐怖が和らいでいく。そんな中、猪野、伊良部に最大の危機が!

義父のヅラ・・・
「実は最近、自分が何か派手なことを仕出かしてしまうんじゃないかと、ひやひやしているわけよ」
大学講師の野村達郎の悩み。それは、「どう見てもヅラとわかる義父(学部長)のヅラを皆の前ではいでみたい」という、バカバカしいけど強迫的な衝動。
藁にもすがる思いで相談に訪れたかつての学友(?)伊良部からの提案は、どれもこれも究極的に最低なものばかり、だったけれど・・・。

ホットコーナー・・・
突如送球のコントロールが利かなくなってしまった板東新一。このままでは開幕、エースの座、ともに絶望的。だめもとで伊良部のもとを訪れた板東。けれど治療してもらえるかと思えばキャッチボールの講師を頼まれるわ、あげくどう見てもおもしろがっているだけの伊良部のせいで、症状は次々と悪化していく一方。
けれどその瞬間は、ある日突然にやってきて・・・。

女流作家・・・
「まったく調子が狂う。こんな人間、初めてだ」
売れっ子女流作家の牛山(星山)は、ある症状に悩まされていた。
小説を書いていると過去にどこかで使用した設定になってないかと不安でたまらなくなる。何度確認しても気が済まない、あげく嘔吐してしまう。
相談先の伊良部は治療どころか「ぼくも本を出す(もちろん印税目当て)」と抜かす始末でまったくたよりにならない。そんな売れっ子作家の牛山が知った、創作者の残酷な現実。
おなじみ、くわえたばこの美人(変人?)看護婦、マユミさんの最後の言葉に、私は牛山さんでも何でもないのに感激してしまう始末。これって最高のラストだって思った。

人の話も聞かず、治療そっちのけで(そもそも治療する気がない?)、いつのまにか空中サーカスデビューしたり極道界に乗り込んだりと、伊良部先生の相変わらずなめちゃくちゃぶりが炸裂。
バカバカしくておもしろい。けれどどっかでめちゃくちゃ切なくなったりもするから不思議。

けっきょく伊良部先生はヤブ(しかもマザコン、注射フェチの3重苦)なのかとんでもない天才(?)名医なのか、今回もさっぱりわからないまま。

けどたまには伊良部総合病院の地下室で注射打たれるのも良いかもしんない。
なんて思った。

奥田英朗 『空中ブランコ』 文春文庫
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三浦しをん 『むかしのはなし』

むかしのはなし (幻冬舎文庫 み 12-1)むかしのはなし (幻冬舎文庫 み 12-1)
(2008/02)
三浦 しをん

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画面に緊急速報のテロップが出ていて、「明日正午、日本政府から国民に向けて重大発表があるもよう。テレビ、ラジオをつけるようにしてください」と言った。(『入江は緑』)

今の日本で「昔話」が生まれるとしたら?
3ヵ月後に隕石が衝突するという状況に置かれたひとたちの日常生活。
7つの書き下ろし中・短編集。それぞれの(今の)物語が昔話とリンクしてるという、月並みだけど「すげーなこれ」って口に出さずにはいられない一作。

おおざっぱにあらすじを紹介すると、

「ラブレス」(かぐや姫)・・・
祖父、父と、27歳で死んだ。そして27歳の俺は今、やくざに追われて港で最後のメールを打っている。

「ロケットの思い出」(花咲か爺)・・・
空き巣の「俺」が刑事に語るむかしばなし。高校の同級生、犬山とのおかしな顛末。

ディスタンス(天女の羽衣)・・・
「パパの年の離れた弟」の鉄八とのことを、カウンセラーに話す「あたし」。
鉄八は「あたし」から離れていく。それでも・・・。

入り江は緑(浦島太郎)・・・
五年ぶりに島へ帰ってきた修ちゃんと、修ちゃんを連れて行くというカメちゃん。やがて「重大発表」を聞いた「ぼく」は、カメちゃんの言葉の意味を知る。

たどりつくまで(鉢かづき)・・・
タクシー運転手の「私」が、観葉植物に報告するためにつける日記。
「今夜は、少し変わったお客さんを乗せた」。

(猿婿入り)・・・
「どうして私、こんな男と結婚しちゃったんだろう」。
やさしいけど、なんて不気味な愛情。

懐かしき川べりの物語せよ(桃太郎)・・・
みんなに恐れられるモモちゃんと、友人有馬と宇田さんと「僕」。
「長生きしたいなぁ」って、ある日突然モモちゃんは言ったことがある。

リンクしてるって感覚だけ感じられれば、あとはそれ以上踏み込まず、そのまますんなり物語に入り込んだほうが、きっとおもしろく読める気がする。
むかし一度単行本で読んだとき、「今の話」と「昔話」のどこが具体的にリンクしてるのかいちいち確かめながら読んでたらまったく読めなかったので。

それにしても、エッセイと小説の、このギャップはなんだろう。こういうのを天才肌とかいうのか。うむむ、って偉そうな評論家みたいにうなりたくなるんだけど。(どちらともすごく素敵でおもしろいんですが)

「×ヶ月後(近い未来)に地球が終わる」という設定ってよく聞く気がするけれど、これはその中でも一癖ありそうな1冊。おすすめです。

三浦しをん 『むかしのはなし』 幻冬舎文庫
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江國香織 『つめたいよるに』

つめたいよるに (新潮文庫)つめたいよるに (新潮文庫)
(1996/05)
江國 香織

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デュークが死んだ。
私のデュークが死んでしまった。
(『デューク』より)

飼い犬を失った女性が不思議な男の子と会う不思議な1日 『デューク』他、
デビュー作 『桃子』、はないちもんめ小さな童話賞大賞受賞作『草之丞の話』など、
初期の短編物語21作品を収録した短編集。

子供たちとか、恋人とか夫婦の話が多い。

たとえば、青屋根の窓の『鬼ばばあ』や、おかしくて少し不気味な『夜の子供たち』に、可愛く強かな『子供たちの晩餐』。

蠱惑的な幼女と修行僧の(一種猟奇的な)結末『桃子』、かつての家で口に入れる『さくらんぼパイ』、クリスマスのコンビニでの小さな物語『とくべつな早朝』。

守り続けてきた『草之丞の話』、遠いさよならを告げる『いつか、ずっと昔』、幸福なドアが閉まる『スイート・ラバーズ』や、素敵でおかしな奥さんの『朱塗りの三段重』。

江國香織というひとがひとり凝縮されてるような1冊。
読んでると、根拠もないのにそんなふうに感じる。
不思議でどこか曖昧で、いたずらっぽくて不気味で、時折孤独で温かく、けれど切なく愛おしいような。

そういいつつ、私がとくに大好きなのは『ねぎを刻む』と『コスモスの庭』と、それからもちろん『デューク』なんだけれど。

あと、『スイート・ラバーズ』は婚約者のいる友達に、ちょっと贈りたくなった。

最後に、解説よりこれは、と思った部分(というか最後の2文なのですが)を抜粋。

テーマなどという大仰なものはどうでもいい。江國さんは、ただ自分の好きな懐かしい風景を静かに描いていく。
だから「夏の少し前」の洋子の言葉が胸を打つのである。「私、ずっとながいこと、こんな光にあこがれていたような気がします」。


江國香織 『つめたいよるに』 新潮文庫
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杉基イクラ 『Variante ヴァリアンテ 01』(~04・完結)

ヴァリアンテ (01) (角川コミックスドラゴンJr.)ヴァリアンテ (01) (角川コミックスドラゴンJr.)
(2004/11/01)
杉基 イクラ

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夜明けなんて 見たくなかった
まだ闇の中なら これは悪夢だと錯覚できたかもしれなかったのに


「コード05」と呼ばれる惨殺事件に巻き込まれ、目が覚めたときには左腕に凶悪な異形「キマイラ」を宿していた主人公、宝生アイコ、15歳。
目の前で次々と奪われてゆく、家族、友人、大切なもの、居場所。
突然にあまりに多くを失ったアイコは、絶望の中キマイラ駆逐のための軍事兵器として、それでも生きていくことを決意する。
すべては、失ってしまった「居場所」を取り戻すため。

生きるための凄惨で、壮絶な戦い。そんな言葉では全然足りないか。

主人公・宝生アイコを取り巻く運命はあまりに残酷、無慈悲。

自分がまだ人間であるかもわからなくなる、地獄の現実。

それでも実験動物としてただ死を待つのでなく、兵器としてでも生きぬくことを決意したアイコに、つきつけられるさらに凄惨な事件や事実。

自らが今まで殺めたキマイラの正体に気づいたアイコの絶望と苦悩、
襲いかかる研究施設ATHEOS(アシオス)の、悪魔の陰謀。

既に4巻で完結していて、ラストだってけしてハッピーエンドではないです。

大切なものをすべて失ったうえ、やっと手に入れかけた支えすらも奪われてしまう。
けれどそんなあまりに残酷な運命に翻弄されながらも、アイコは生きぬくことを止めない。
最後に見せたアイコの笑顔が、少しでもこの物語の救いになればと、心から願わずにはいられなかったです。

残酷描写、死体描写など多数ありますので、苦手な方は読まないほうがいいです。
大丈夫な方は、ぜひ読んでみてください。

杉基イクラ 『Variante ヴァリアンテ 01』 角川コミックスドラゴンJr.
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Cocco 『想い事。』

想い事。想い事。
(2007/08/10)
Cocco

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愛したい。
紆余曲折の日々。
されど愛したい。
私が生きる意味なんてそれだけ。
でっかいテーマだ。
私は愛するために生きてる。
少々グレたって超まっすぐ。
私は愛するために生きてる。
私の全てを賭けて 愛するために生きてる。
これは確かだ。


2006年4月から2007年3月までの、Coccoさんの毎日新聞連載記事を単行本化。
Coccoさんの「想い事。」が、自ら撮った写真と綴った文章で伝わってきます。

沖縄、家族、失しもの、歌、花、ひめゆりの風、全力前進、野生、明日、生きること、そして愛すること・・・。

これほどのまっすぐの想いを秘めて抱えて、伝えようとしてくれるCoccoさん。

想いを綴ったCoccoさん、この1冊をして「祈り」と称した編集者さん、この本を出版する(つくりあげる)ことに関わったすべてのひとに、こころからの感謝を。

この本に会えてほんとによかったと思うから。

ところで、ここからちょっと脱線。

私がCoccoさんのことを知ったのは活動休止の後(ベスト+裏ベストが出て少ししたくらい)でした。

たとえば「Way Out」、「カウントダウン」、「遺書。」、「焼け野が原」に、あと「茨」。

あのとき私は「このひとは生きるために死ぬようにして生きてるひと」だとか(勝手に)思ってて、
そしてそう思いながら確実にCoccoさんの歌に支えられていた気がする。

「音速パンチ」でCoccoさんが復活したときはそれこそ倒れそうなくらいうれしかったけれど、私の知らないはじめて会うCoccoさんだなって思った。

あのとき私が会ったのは、「愛したい」ってまっすぐに言うCoccoさんだったんだって、この本読んで気がついて。

なぜだか泣けたのです。ほんとに、なんでだろーね。

以上。脱線終了、軌道修正。

あーあ。こんな私にも、だれかを何かを愛せるのでしょうか。

なんてね。(と軽口にしてしまうから私はダメなんだけど)

最後にもう一部、抜粋。

やさしくなりたいなぁ。
やさしくなりたいと願う。
他人に自分にやさしくなりたい。


やさしく。

これだってめちゃくちゃ「でっかいテーマ」。

だけど叶えるんだろうな、このひとは。
無責任だけど、そんな気がする。

だったら私も生きて、いつか・・・なんて想うのです。本気で。(そのまえに、「やさしい」って何なんだろ、とか思うんですけど)

Cocco 『想い事。』 毎日新聞社
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三浦しをん 『夢のような幸福』

夢のような幸福 (新潮文庫 み 34-6)夢のような幸福 (新潮文庫 み 34-6)
(2008/02)
三浦 しをん

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思うに、彼女は直木賞作家ではあるけれど、漫才の台本などを書いたとしてもきっと大をなして、芸術選奨大衆芸能部門新人賞くらい楽に取れそうに思われる。(解説より)

↑おっしゃるとーり。そんじょそこらのお笑い芸人よりもよっぽどおもしろい!

ご存じ、三浦しをんさんの爆笑エッセイ第?段。(←すみません、わかりません)
今回もしをん節(妄想節)炸裂! 映画も漫画もなにもかもを脳内で瞬時に妄想変換するしをん流の神業の数々。超個性的な友人さんとの冷静なのに笑えるやりとり。毎度おなじみバクチク談義。
今回もとことん爆笑させていただきました。(^^)v

あんまりお楽しみを削ぐと怒られそうなので、ほんの一部分だけ抜粋。
しをんさんと友人Gさんとで水着を買いにいき、しをんさんが試着する場面。

「ちょっとちょっと、なんでまだ水着を着ていないのに笑うわけ?」
「いやあ、私はまだまだだったんだな、と思って」
と、Gは私の腹のあたりを見ながら言う。まったく失敬なやつだ。しかし事実なので、反論もできない。
私は気力を奮い立たせて、まずは大正水着を着てみた。
・・・・・・。鏡の前で凍り付くGと私。試着室の中は肉屋の冷蔵庫ぐらいに気温が下がった。
「ねえ、G。私はこれまで、こんなに醜いものを見たことないよ」


しをんさんを「ブタさん」と呼ぶ弟さんとのやりとり(漫才?)も必見。
よくわからんけど、とにかくおもしろい! 究極的にシュールな笑い(?)とでも言うのか。
読んでると、実際のしをんさんにすごく会ってみたくなる。

小説とエッセイのギャップがここまで激しい(良い意味で、です。もちろん)ひともめずらしい。

だからよけいに、しをんさんの本をもっともっと、じゃんじゃん読みたい!って気になるんでしょうか。

未読の方、はてしなくオススメします。

三浦しをん 『夢のような幸福』 新潮文庫
プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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