投稿日:2008-04-17 Thu
![]() | ホテルカクタス (集英社文庫) (2004/06/17) 江國 香織 商品詳細を見る |
ホテル カクタス、というのが、このアパートの名前でした。
ホテルではなくアパートなのに、そういう名前なのでした。
ある街の東のはずれのふるいアパート、ホテル カクタス。
そこでは数字の2と、きゅうりと、帽子と、その他の住人が暮らしている。
数字の2は役場勤め。几帳面な性格で、何でも割り切れないと気が済まない。お酒は飲めず、いつでも手に入るグレープフルーツジュースばかり飲んでいる。
きゅうりは見た目のとおり、ぱきっとまっすぐな若者で、健やかなスポーツマン。けれどあまり物事を深く考えないのが玉に瑕。
帽子は元行商人で、今は無職。ものすごい読書家なのだけれど部屋の掃除をする習慣がない。ほこりまみれの本の山の中でカメを飼い、たまに賭け事に精を出す。
見てのとおり、ここには人間はいない。(途中で何人か出てくるけれど)
けれど読んでると、数字の2、きゅうり、帽子が、いつのまにか当たり前のようにそこにいて、毎日すんなり生活しているから不思議。
2はグレープフルーツのジュースを飲んで役場に出かけ、きゅうりはガソリンスタンドで働いて、さらにアパートの部屋で運動したり、ときには詩人になったり。
そして帽子はうずたかく積み上げられたほこりまみれの本の山でカメに夜食をあげている。
もちろんおとぎ話なんだけれど、これはひとの暮らすおとぎ話。
喜びも可笑しみも哀しみもふくめて、だれかと生活してゆくおとぎ話。
そんなことを感じたときから、私はこの物語をぐんと好きになった気がする。
それは、いつもどおりの夜でした。ウイスキーの匂い、部屋のあかり、自転車の摩擦音。
(友達っていいなあ)
2は思いました。そりゃあ家族は大切です。でも、友達はいつもどおりですし、重要なのは、そのことでした。きゅうりも、帽子も、いま現にここにいるのです。
もちろんそんないとおしい毎日だって、ずっとずっとは続かない。
この物語は一度終わってしまうけれど、またいつか会える日だってやってくるはず。
いろんな思いや切なさを受け止めながら、最後の1ページを読み終えました。
佐々木敦子さんという画家の方が描かれた(たぶんカクタスの)内観と併せて、ぜひ実際に、手にとって味わってみてほしいなって思う作品です。
江國香織 『ホテル カクタス』 集英社文庫
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