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小川洋子 『ブラフマンの埋葬』

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫 お 80-2)ブラフマンの埋葬 (講談社文庫 お 80-2)
(2007/04/13)
小川 洋子

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夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。
朝日はまだ弱々しく、オリーブ林の空には沈みきらない月が残っているような時刻で、
僕以外に目を覚ましたものは誰もいなかった。


芸術家の集う“創作者の家”で管理人として働く僕は、夏のある日、ブラフマンに出会った。

彼はまだ子どもで、体中が小さな引っかき傷だらけで、所々血がにじんでいた。
ブラフマンには胴回りに比べてあきらかに短い四本の脚、首の付け根に申し訳程度に付け足されたような耳に、胴の一・二倍に達する尻尾に、水かきとひげをもっていた。

彼の「ブラフマン」という名前はサンスクリット語で「謎」を意味する言葉で、
“創作者の家”にいる碑文彫刻師が自分の刻んだ作品を指差し、その中から僕が選んだもの。

そんなブラフマンと暮らして愛して、見守り続けたひと夏の物語。

小川洋子さんの作品にしてはめずらしく、
大部分はどこかほのぼのしたような感じすらする、とても落ち着いていて、おだやかな物語。

部屋で飼うことにしたブラフマンに、根気強く僕や芸術家たちに迷惑をかけずに暮らすための決まりごとを教え、食べさせて世話をして、たまに記録をつけて、夜はいっしょに眠る。

一番好きなのは、机の脚を齧ってぼろぼろにしてしまうブラフマンを、僕が叱る場面。
長くなるけど、ちょっと載せてみたいから載せてみる。それはこんな場面なんだけれど。

「そんなものを齧っちゃだめだ」
昔、子供の頃、父さんに叱られた時の口調を真似して叱る。
「それは机だ。齧る物じゃない。物には全部、役割があるんだ。いいか。それは、本を読んだり、手紙を書いたり、物思いに耽ったりする時のために、そこに置いてあるんだ」

やはりブラフマンは目をそらさない。僕が言葉を発する時、目が合っていなければ、その言葉は宙をさ迷ってどこにもたどり着けない、と信じている。

「爪を切ったり、プラモデルを作ったり、昔の写真を眺めたり、誰かのことを思い出したり、涙を流したりするために置いてあるんだ。いいね。齧っちゃだめなんだ」

ブラフマンの目をできるだけ長く見つめていたくて、僕はいつまでも喋っている。


それにしてもくどい叱り方だな、と思ってたら、なんとまあ可愛らしい理由があって、
小川さんのさりげないユーモアとやさしさが一緒くたで、だから好きなんだろうな、この場面。

何もない、けれどたしかな愛情のある毎日。
お互いがお互いを必要としていて、そして守り守られるたしかな絆。

ほとんどその繰り返しで、動きといえばたとえばブラフマンの散歩の範囲だとか、僕の雑貨屋への買出しや、芸術家たちの送迎くらいしか目に付かない。
淡々とした繰り返し。けれどその中にある、おだやかな愛おしさのつまった、おそらくはかけがえのない日常。

けれどその日常は、僕が雑貨屋の娘に関ろうとすることにより少しづつ姿を変え、
結果として最後にはブラフマンの命を絶つ結果となる。

けっきょく「何かの動物であり、どうやら哺乳類らしい」ということだけで、ブラフマンの正体は最後の最後までわからない。

タイトルを見た時点で想像はついていたし、小川洋子さん特有の硬質で淡々とした文章なのだけれど、それでも最後のブラフマンの埋葬の場面は息がつまった。

今まで読んだ小川洋子さんの作品で唯一嫌いな登場人物は、この雑貨屋の娘。
反対に一番好きなのは、じつはこのブラフマンだったりする。

今日みたく、少し涼しい夏の晴れた日に、じっくり読んでいたい物語。

小川洋子 『ブラフマンの埋葬』 講談社文庫
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プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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