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小川洋子 『密やかな結晶』

密やかな結晶 (講談社文庫)密やかな結晶 (講談社文庫)
(1999/08)
小川 洋子

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「いずれにしても、消えてしまうんですね。どこにもたどり着けずに」

日常にいつも棲んでいるものが、ある朝突然、島から、そして島に暮らす人々の記憶から“消滅”してしまう。
人々はそんな島の生活に順応し、そんな中で、わたしは島ではほとんどだれも読まない小説を、それも何かを失くす小説ばかりを書き続け、生活している。
この島では、“消滅”に抗うこと、そして抗う存在はけして許されない。
“消滅”に伴い記憶を失わない者は、秘密警察により連行され、二度と戻ってくることはない。
ある日わたしの小説を一番に読んでくれる編集者、R氏が記憶を失わない人間であることを知ったわたしは、古くからの知り合いのおじいさんと共に、なんとかR氏を秘密警察から匿おうとするが・・・・・・。

大げさにいうと、今までに一度も出会ったことのない、
静かで濃密で危険な、独特の世界観。

昨日まで当たり前に存在していた“バラ”や“鳥”に“木の実”、“写真”や“ラムネ”に“香水”が、
朝になると“消滅”により、記憶から永遠に奪われてしまう。
たとえば目前で“香水”を嗅いでも「何かの匂い」、「何かの気配」しか感じることはできず、思い出の“写真”を見ても「ただのつるつるした一枚の紙」としか認知できない・・・。
“消滅”に見舞われたそれらのものたちは、不要とみなされ、その日のうちに人々に一つ残らず処分される。

そんなわたしの記憶の空洞。
“消滅”のたびに増えていく空洞を食い止めようと、R氏は懸命になる。
けれど“消滅”の影響を受けないR氏と、わたしのこころの溝は決定的で、
それはおそらくは永遠に直行することはない。

そうする間にも、秘密警察の取り締まりは日に日に厳しさを増し、
“消滅”の対象もどんどん幅を広げていく。
書き続けてきた“小説”、時間を記録する“カレンダー”、そして・・・・・・。

物語から連想するのは、否応なく「死」そのもの。
ここではそれは「死」でなく「消滅」なのだけれど、いずれにしても、それは何かを失くすこと。
当たり前に傍らにあったものが、もうどこを探しても、二度と見つけることはできない・・・。

考えてみれば、そんなことは特別なことでもなんでもない。
けれど「ありふれたこと」と、割り切ることもけしてできないこと。

“ある”こと、“ない”こと。
当たり前の両極の事象を、究極的につきつめた物語。

私は「日常」という言葉を好んで使うけれど、
その日常は、たくさんの存在があって初めて成り立つもの。
いつ消えるともしれない、たくさんのもので。

危険で愛おしく、一度読めば忘れることなどできないはずの物語。
今知ったなら、必ずって言いたいくらいに読んでほしい本。

小川洋子 『密やかな結晶』 講談社文庫
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「密やかな結晶」

「分かりません。消えない心がそのまま生き延びることのできる場所が、どこかにあるの
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小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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