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松尾由美 『雨恋』

雨恋 (新潮文庫)雨恋 (新潮文庫)
(2007/08)
松尾 由美

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「最初にはっきりさせたほうがいいと思いますけど、わたしは幽霊です。
 そういうことになるんだと思います。三年前にこのマンションで死んで、そのままこうしているから」


沼野渉、30歳、会社員。
「長くつきあうと飽きがくる」と恋人にふられ、外は連日の雨。
おまけにその雨がもとのちょっとした隣人トラブルで今の住処にも住みづらくなってしまう。
そんなとき、たまたま海外支社へ赴任するという伯母の代わりに、伯母のマンションに住むことに。
伯母の飼っている2匹の猫の面倒を見るという条件つきではあるけれど、
そのときは人生で一番のラッキーが舞い込んできたと思っていた。

けれどある日、部屋から2匹の猫を可愛がる見えない女性の声がし、
さらに声の主は24歳の女の子で、何者かに「自殺をやめることをやめさせられた」
つまり殺されたというのだ。
犯人への恨みはないが、だれが自分を殺したかを知ることなしには
「死んだひとが行くところ」にはいけそうにないと言う。
たぶん根っからの“いいひと”の沼野は、以来彼女が死んだ雨の日にだけ現れることのできる
幽霊に、いっしょに犯人を捜す手伝いをすると約束したのだけれど・・・・・・。

「名手が描く、奇跡のラブストーリー」というのが売り文句だけれど、
アマゾンでレビュアーさんが何人も指摘してるとおり、恋愛小説としてだけでなく、
ミステリーとしてもかなりのおもしろさ!

連続薬物自殺事件として片付けられていた事件のひとつが、じつはそれは自殺でなく、
「自殺をやめることをやめさせられた」、殺人事件であると、被害者自身が訴えてくる。
ふつうなら「んなこと言われてもねえ・・・」と困り果てたり、あげくはたぶん引っ越すとこだろうけど、
ひとのいい沼野は協力を決意。
まずは幽霊、小田切千波の言う、一番の容疑者に接触を図るも、またたくまに疑惑は晴れてしまい、
少しづつ明らかになる千波の事情から炙り出した容疑者も、すぐに潔白、もしくはアリバイが成立してしまう・・・・・・。

逆転、逆転、また逆転!!という手に汗握る大迫力ミステリ!とはいかないけれど、
これだ!!と思った答えがするすると抜け落ちていく。そんな過程の繰り返し。
思うように進まない事態にいらだったり焦ったりしながら、自然とページをめくる手が止まらなくなる。

けれど姿を現したこの「殺人事件」の真相は想像もつかず、そしてあまりにも哀しいもの。

最後の雨の日。
真相にたどり着いた沼野は、その事実を千波に伝える、つまり千波との別れを前に、
それでも重い口を開く。

「マジですか・・・・・・」と思わずつぶやいてしまったほど、あまりに哀しい答え。
そして真実を知った千波と沼野に迫るリミット。
ミステリの仕掛けと恋の終焉が同時に訪れる、直球勝負のラストシーンはけっこう泣ける。

正直な話、ラストシーンは、たぶんある程度予想はつくものだとは思う。
けれどここまで素直に泣けるのは、ひとえに松尾さんの書く物語の力。
「ささらさや」「てるてるあした」にも似てるけれど、やっぱりそれとはまた少しちがう気がする。
つかの間の関わり、それも、雨の日だけの関わり。
それはたぶん、ほんの少しの時間でのかかわりが、いつか大きな意味を持つようになる、そしてそれすらも持ち続けられないという、切なさと儚さ、そして哀しさ。

ちょうど雨の降る日に読めたこともあったのだろうけど、
雨の降る音のように、水滴のように、じんわりと身体に、こころに染み込んでいく物語。

あと、最後の最後。
それも物語でなく、解説の終わり部分。
さりげなーく「うおおおお!!そういえば!!」となることがさらっと書かれていて、
物語とあわせて二度びっくりしてしまった。(途中でさっさと気づく人もいるかもだけれども)

というわけで、解説先読みは厳禁。
できれば雨の降る夜なんかに読めればもう言うことなし。
極上というにはちょっと素直すぎるかもしれないけれど、けっこうとっておきの物語。
ここで知ったからには、こりゃもう読まなきゃ損!ってもの。

松尾由美 『雨恋』 新潮文庫
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プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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