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角田光代 『キッドナップ・ツアー』

キッドナップ・ツアー (新潮文庫)キッドナップ・ツアー (新潮文庫)
(2003/06)
角田 光代

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「いいか」赤信号で車をとめて、おとうさんは私を見た。
「おれはあんたをユウカイするんだ。当分帰ることはできないんだから、覚悟しておけよ」


小学五年生の夏休み。
しっかり者の女の子のハルは、いつの間にか家からいなくなっていたおとうさんにユウカイ(=キッドナップ)される。家にいた頃はふざけてばかりでおかあさんに愛想をつかされていたおとうさんだけど、
どうやらこのユウカイだけは真剣らしい。おとうさんによれば、おとうさんとおかあさんの「取り引き」が成立するまで、ハルは家には帰れないのだ!
・・・・・・ということらしいのだけれど、肝心のおとうさんはじつにお調子者で情けなくて、
クールにかまえるハルのほうがよっぽどしっかりしてるくらい。
そのうち(たぶん)おとうさんのお金も底をつきはじめ、当初はそこそこ裕福だったユウカイツアーが、だんだん、だんだんと衰退し始めて・・・・・・。

あー楽しかった!!と、読後まっさきに思った、親子ひと夏ユウカイ物語。
ダメダメ親父としっかり者の小さな娘の、文字通りのでこぼこコンビの珍道中。
見知らぬ旅館の海水浴に、安宿お寺の肝試し、ボロチャリ泥棒に猫屋敷。
ダメダメ親父の、風の吹くまま気の向くまま。

しっかり者とはいえ子供のハルは、「選択権」はあるけれど「主導権」は持たせてはもらえない。
あげくしぶしぶおとうさんについてゆくことになるのだけれど、
口げんかでおとうさんを黙らせたり、道行くひとを巻き込んでおとうさんへのしっぺがえしを企てたりと、
子供の最低限できる、最大限の攻撃はちゃっかりしかけて、あげくおとうさんはぐうの音もでない。

そんなふうにして、それでも歩だけはどんどん進み、さりとておとうさんとおかあさんの「取り引き」は
成立する気配もなく、おとうさんのサイフの中身も増える気配もなく、だんだんと状況は悪化。
ファミリーレストランの昼食なんてぜったいに食べれないし、まして旅館なんて夢のまた夢。
そんななかでも、なんとかやっていくこのでこぼこコンビの生活のやりくりで、
ことはなんとか終わらずに運んでいける。

お金がないぶん、自分たちで協力してしなければならないこと。
ユウカイされてる、してる立場でそんなことになるのはほとほと妙な話だけれど、そんなことはどうでもよく。ハルとおとうさんは行く先どこにだってふたりで移動し、ときにお互い憎まれ口をたたきながらも、
(たいていはハルがおとうさんの情けなさをなじり、それにおとうさんが少し反論して言い負かされる)
たくさんの小さなピンチ、大きな時間を、ふたりそろって過ごしていく。

最後の最後までおとうさんはダメダメなままで、ハルはあいかわらずのしっかり者のままで。
目に見えるものはなにも変わらない、というかふたりしてユウカイ期間中に薄汚れたことくらいだけど、
それでもふたりの中、たしかに生まれて、つながるものが出来上がる。

“親子の愛情”、“親子の信頼”。それとはぜんぜんちがう。
ダメダメ親父は、しっかり者のハルにはあまりにも信頼に足らないし、
おとうさんがハルに思うのは、“親子の愛情”にしてはどっかでひょろひょろ、おふざけ感が残りっぱなし。

たとえばの話。
田舎で偶然知り合った、わんぱくな子供。
それがここで言うおとうさんで、ハルはそんなおとうさんに引きずられながらも、
こころのなかでおとうさんのことを、ダメダメで格好わるいのだけれど、
そんなおとうさんにいつしかにっこり笑ってみせれるようになってる。

たしかに親子なのに、感じるそれは友情に近い。描かれてるのは、そんなとても不思議な関係。
だっていうのに、ここには微塵の違和感もなく、あるのはさっぱりくっきりと広がる、
突き抜けるように爽快な読後感。
なんでだか知らないけれど、こういう感じを感じるのは、読んでてとてもとても気持ちがいい。

夏の日差しによく合う、とっておきの夏休み小説。
もちろん、こんなさむい日の昼でも夜でもいつでも、一度ページをめくり始めればもう自然と、
このふたりのおかしなひと夏キッドナップ・ツアーに飛び込んでいけるのだけど。

角田光代 『キッドナップ・ツアー』 新潮文庫
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プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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