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津村記久子 『君は永遠にそいつらより若い』

君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)
(2009/05/11)
津村 記久子

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「問題がないのは悪いことじゃないけど、寂しいことなのかもしれない。わたしにはそれが普通だけど。このまま問題を抱え込んでも、わたしを助けてくれる人はいないと思う」

「わたしは二十二歳のいまだ処女だ。しかし処女という言葉にはもはや罵倒としての機能しかないような気もするので、よろしければ童貞の女ということにしておいてほしい」
地元の公務員として就職も決まり、単位もとった。残りの大学生活を持て余すホリガイ。
バイトと学校と下宿と、友人や、友人とも知れない者や後輩の間をうろつくホリガイは、ぐだぐだながらもそれなりに楽しめる生活を送ってはいる。
しかしふとした拍子に、その日常の裏に潜む「暴力」を「哀しみ」が顔をのぞかせる・・・。
なにかを言えるようで言えない、吐きたくもない言葉を吐いてとまらなくて、酒だの大根サラダなどを話し相手にひっかけられる。腹いせに、そいつの彼女で自慰しようとして、げんなりして止める、などと無為の繰り返し。
そんなホリガイが、日常の隙間から顔を見せた「暴力」と「哀しみ」に遭遇したとき・・・。

読み始めて、あまりにぐだぐだ、だらだらした口調で続く語りがどこに行くかわからず、「なんだなんだ?」と思っていたら、ずんずんと殴られるように引き込まれ、最後は嘆息しつつ読了。

22歳「女の童貞」ホリガイのまわりにあふれるもの。
日常に潜む暴力。虐待、誘拐、自殺、リストカット、自殺未遂、傷跡、レイプ・・・。
「人生でいちばん負けたーって思った」のは「小学三年の一学期の終業式の朝に、男子に二人がかりで殴られたこと」というホリガイ。
たまたまテレビで見た行方不明の男の子のこと(実在の、未解決事件)を知ってから、「あまりにもつたなく、衝動的に」、「妄想じみて」いたけれど児童福祉の仕事を目指した。

ふと顔を出す「暴力」の味の一端を知るホリガイは、どんなかたちであれ、それらに出遭ってしまった者を、というよりそういった者がいることを、どうしても無視できない。
そうして、まるで太陽を直視し続けるように見てしまうのに、二重三重と気をまわして吐いた言葉はなにひとつといっていいほど身を結ばず、へらへらと薄っぺらな「白痴」のような言葉になりさがる。
「笑うようなことではないのに、笑わずには言葉を続けることができない」ようなことであっても、けっきょくは自分も「顔を歪めて笑うしかない」し、わからないことを親身に聞いてるふりして、けっきょくわからないことも、多々ある。そうして必ず、手痛いしっぺ返しをくらって思う。

わたしはやっぱり適当なことを言ってしまっていた。くよくよするよりそのほうが生きやすいじゃないか、いろいろな経験ができるからいいじゃないか、長所なんだから活かさないと、などと紋切り型の言葉を並べても、少しも響かないであろうことはわかった。魂と肉体の組み合わせは無数にあり、その相性が良くないことに悩むことのなにを責められるというんだろう。両者の間の軋みを感じることができるのは、当事者だけなのだ。

手を伸ばすのか、伸ばさないのか。伸ばしたのに、何もしないでとりあえず顔をゆがめるのか。
そんな言葉や態度を併せ持つホリガイに寛容でいられるような者は世間にはたくさんいるのだろうけど、ホリガイのまわりにはいない。

おまえがそんなふうにのんべんだらりと自足してられるのは、おまえが他者を知らないからだ。
この白痴め。緩々の人生をもてあまして人助けを思いついたか。おまえでは無理だよ。


とか、

たしかにかわいそうな話ではあるけど、あんたがおかしくなるようなことはないだろう

といった、憎々しい言葉や、他意のない呆れ顔が、そんなホリガイの前に幾度となく現れる。
それでも、ホリガイはそれまでのホリガイでいることをやめない。
だれかが遭遇する暴力の、その場所にいることができなくても。自分のささやかな幸せじみたもの、バイト先の主任の「ありえないほどデカいケツ」が、手に入れたかったのに遠くにいってしまっても、泥まみれになって自分でも意味も分からず探しているものが、探し当てたとて、だれかが傷ついた過去には何の太刀打ちもできないと知っていても。

「あんたはいい子だから大丈夫。わたしみたいに計算高さが高じて手も足も出なくなったのとは違う」

彼にしかわからない悩みに苦しむ後輩に、ホリガイがかけた言葉。
それはちがうだろと、後輩と同じ言葉を返したかった。
そもそもホリガイ、計算しようともしない、「あんたがおかしくなるようなことでないだろう」とか、無責任に大丈夫なんて何百回でも言える心持は、日常の暴力に立ち向かうことを、哀しみを看ることを止めた口からはあっさりと出てくるものだからね、と。

ひとはひとを知ることはできないし、もしかしたら本当にすべて助けてくれるひとも自分もその瞬間も、いないもので、ないものなのかもしれない。
ただでさえ「他者」。まして、理不尽としても言い尽くせない、「暴力」や「哀しみ」の前にあっては。
けれどホリガイは、そこから完全撤退することなく、だれに頼まれたわけでもない傷にまみれて、そんな自分をときに自傷のように自嘲し、ときに他者に蔑まれ、憎まれながらも、ずっと抗っている。
結果のない抵抗と、わかりきっていても。

わたしは、イノギさんが十年ほど前にここでなくした自転車の鍵を探していた。イノギさんがわたしに探してくれとたのんだわけではなかった。探し当てたからといってどうなるというものでもなかった。今それを見つけるのを望んでいるのは、世界でわたし一人であると言ってもいいかもしれない。でもわたしにはそうすることが必要だった。彼女の前に立つためには。

冒頭のワンシーンより引用。

わかることも助けることも助かることもないけれど、そう思ってしまったからには、せめて前に立つことをあきらめない。
ホリガイがあるひとに心の中で語りかけたこの本のタイトルを、その意味を、そうとしかできない絶望とほんのわずかな救い、その両方を端折ることなく直視できないと、今よりずっとこの目はくもって、このまま目玉の屍になってしまう気がした。

津村記久子 『君は永遠にそいつらより若い』 ちくま文庫
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小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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