投稿日:2008-03-08 Sat
![]() | 凍りついた香り (幻冬舎文庫) (2001/08) 小川 洋子 商品詳細を見る |
「じゃあ一体、私に何ができるんでしょう」
「記憶するだけです。あなたを形作っているものは、記憶なのです」
ライターである「私」の恋人は、「私」に自作の香水をプレゼントしたあくる日、調香室で無水エタノールを飲んで自殺した。
彼の弟と「私」は、やがて彼が残していた3つの文章を発見する。
「締め切った書庫。埃を含んだ光」、「凍ったばかりの明け方の湖」、「古びて色の抜けた、けれどまだ十分に柔らかいビロード」、そして「記憶の泉」。
恋人の死の理由を求めて、「私」はひとり、プラハへと発つ。
小川洋子さん作品ではあまり見かけない、まるでミステリー小説のような物語でした。
調香師、「記憶の泉」、弟、ルーキー、偽りの履歴書、スケート、数学コンテスト、無数のトロフィー、空白の数学コンテスト大会、孔雀の羽・・・。
いくつかのキーワードを頼りに、やがて「私」は恋人・弘之の死の理由を知ることになる。
それはあまりに切なく、そしてもう取り返しのつかない事実。
時折物語の舞台が現実と夢の境を行ったり来たりするけれど、そんな不思議なことすらも、まとめて物語の中に丹精に紡がれていて。
本編中に出てくる数式のように、静謐で、うつくしい文章に、最後まで頁をめくる手を止めることができませんでした。
ところで本編中に、こんな文章があります。
生まれて初めて味わう種類の沈黙だった。決してよそよそしくはなかった。無理に言葉を探す必要などなく、しんとしているはずなのに、鼓膜の底を空気がせせらぎのように流れてゆく、居心地のいい沈黙だった。
「私」と弘之の時間についての描写なのですが、これはそのまま小川洋子さん作品を語る言葉でもあると、そんな気がしています。
「薬指の標本」と並んで、小川洋子さん作品の中でも特にお気に入りの1冊です。
小川洋子 『凍りついた香り』 幻冬社文庫
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