投稿日:2008-04-09 Wed
![]() | 群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に (ピュアフル文庫 い 1-2) (2007/11) 石井 睦美 商品詳細を見る |
だってそれは、宣言なんてしなくたって、忘れようとしなくたって、忘れたりするはずのないことだから。
でもわたしは、じぶんの人生でいろんなことー忘れたかった嫌なことを望みどおりに忘れるかわりに、ほんとうは覚えていたかった楽しいことをも、ずいぶんと忘れてしまったように思うから。
「卵と小麦粉それからマドレーヌ」の姉妹版、というか続編。
未読の方は、先に前作を読むことをオススメします。
(ちなみに今回の主人公は、菜穂から亜矢にバトンタッチされてます)
13歳だった菜穂や亜矢は16歳の高校生になっていて、「すこぶる平和な学校生活」を送っていた。
そんなある日、亜矢は散歩の途中、小学校時代の同級生だった安藤くんに再会する。
それが菜穂曰く「がつんとくる」、亜矢曰く「宿命的な」恋の瞬間なのかわからないまま、どうやらだんだん安藤くんを好きになってゆく亜矢だったのだけれど・・・・・・。
「ピュアフル文庫」だけあって、一見かなりピュアな恋物語。
けれど前作を読んだ方は感づくとおり、亜矢の物語はピュアだけではけして済ませられない、そんな側面をいくつか持ってる。
たとえば、いっそすべて忘れてしまいたいような過去に、痛む指。寄り添いたいけど不安定な母親に、月に一度会うやさしい父親。
状況や形態はちがえど亜矢と同じような過去がある私は、いちいち亜矢の気持ち(というより考えること)にシンクロしそうになる。だからその後、亜矢が続ける想いにけっこう勇気づけられたりする。
安藤くんもいまごろごはんを食べているのだろう。小学校時代の同級生たちといっしょに。ことによると、わたしの話が出るかもしれない。もちろん喜ばしい噂話なんかじゃない。でも、そうだとしたって、それがなんだろう。わたしはいまのわたしでしかない。もちろん、いまのわたしはあのときのことがあったわたしだ。あのときのことがなかったら、いまとはべつのわたしになっていたかもしれない。
終盤。ところどころで不穏な空気が顔を出しながらも、最後は温かなハッピーエンド。
亜矢が感じた温かみが、文章を通して伝わるようで、私はその瞬間がとても好きになってしまった。
たぶん亜矢はうれしそうに笑ってて、だから私もガラにもなくちょいとうれしくなったりする。
言ってみればおとぎ話の他人事なのに、私もいつか夕焼けを持って帰りたくなる。
そーいう瞬間が、本のちからなのかも。
たままど(←前作。勝手に略称)も好きなんだけど、私はこちらのほうが好きです。
石井睦美 『群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に』 ピュアフル文庫
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