2008-04-24
![]() | 人のセックスを笑うな (河出文庫) (2006/10/05) 山崎 ナオコーラ 商品詳細を見る |
「けど、楽しいっすよ。自由に描けるし、褒めてもらえるし。わからないとこは他の先生に聞けばいいし」
「うん。そうしなよ」
「先生、足速いですね」
「あのさあ」
「はい」
「私、君のこと好きなんだよ。知ってた?」
19歳のとき、オレはユリと出会った。
そのときオレは美術の専門学校生で、ユリはそのとき39歳の、デッサン講師だった。
かなり短くシンプルなのに、とても不思議で、いつまでも余韻の残る物語。
「虫歯の優しさ」と併せた、2話収録の短編集。
見た目も39歳で、これといって化粧気もない。長い黒髪で、パーマはかかってるけれどほったらかしのぼさぼさ頭。汚れたスモックを着て、いつもニコニコ笑ってた。
ユリは結婚していたのだけれど、ユリとオレはセックスをした。
少しずつ仲良くなりながら、春を迎え、夏を過ごした。
異質とまではいかなくても、オレとユリのような関係なんて、たぶんそうそうあるもんじゃない。
けれど初めて知ったその関係は、どうしても表しようのないような、不思議な気持ちを抱かせた。
恋だとも、愛だとも、名前の付かない、ユリへの愛しさがオレを駆り立てた。、訳もわからず情熱的だった。
ユリの不思議なダンナが現れるまで気づかなかったけれど、ユリとオレの関係は不倫なんだった。
そんな明らかな事柄に私が気づかなかったのは、オレ自身(そしてたぶんユリも)、自分に巣くう気持ちの名前が(もしかしたら最後の最後まで)わからなかったからなのかも。
そうしてやがて訪れる最後のセックスの瞬間も、彼女と最後に会うことになる場所も、過去になってしまってからそうと知れる。
しあわせな結末ではないのだろうけれど、読了後に感じたのは、たとえば後悔だとか、哀しみだとか、そんな後ろ向きの感情ではなく。
むしろそんな気持ちのほど遠い、まっすぐで爽やかな愛おしさがこみ上げてくる気がした。
「虫歯の優しさ」を読んでも思ったのだけれど、ナオコーラさんは別れを別れのまま、ただ哀しいだけで終わらせようとはしない。
「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」
それが正しいことなのかどうかはわからない。
けれどそれはたしかにまっすぐで温かな強さを持つ言葉で、けして幻想だと嗤ったり、そうと信じてはいけない言葉ではないはず。
「人のセックスを笑うな」というタイトルの真意は正直言って私にはわからないけれど、込められているのはたぶん直接的な感情でなく、何かもっとにじむような想いなんじゃないかって気がする。
それが何か。
そんな肝心なことを、2度目を読み終えた私はまだ見つけられないんだけれど。
山崎ナオコーラ 『人のセックスを笑うな 』 河出文庫


