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月見

Author:月見
マンガと小説と、天野月子さまとCoccoさまの楽曲を何より好む大学生。その日の気分に合わせた本を紹介してます。拍手、コメント、リンク大歓迎。飛びあがって喜びます。

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朱川湊人 『花まんま』
花まんま花まんま
(2005/04/23)
朱川 湊人

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怪しげな神秘は、やはり怪しげな町と共に忘れ去られていって構わないのです。 (「送りん婆」より)

時代は昭和30〜40年代。舞台は大阪の下町。どちらにしろ私にとってほとんど縁のない空間なのだけれど、読んでるとはっきりとそこにいる感覚が生まれてくる。
これはその当時子どもだった主人公たちが体験した、不思議な6つの出来事。

トカビの夜・・・
(これが夢ではありませんように)
そう祈りながら、私は深夜、窓の外で踊るトカビを眺めている。

下町にある袋小路の「文化住宅」に移り住んだ幼い私は、チュンジとチェンホという、 朝鮮人のふたりの兄弟に出会った。
周囲の見えない感情に遠ざけられながらも、徐々に交流を深めてゆく私たち。
けれどある日突然、チェンホが死んだ。やがて袋小路に「トカビ」が現れ始めた・・・・・・。

読み始めてすぐ、これはこわい話だって思った。
見えない偏見、聞こえない蔑みに囲まれて死んだ先を考えれば、私に限らず思いつく先は、たいていのひとがいっしょなんじゃないかって思った。

けれど見えないものって、考えてみればそんなものばかりでもないんだった。

妖精生物・・・
「どうだい、こんな生き物、見たことないだろう?」
そう言って男が差し出したガラス壜には、水に漂う、ビニール袋のような不思議な生物がいた。

それは男曰く、クラゲではない。魔法使いが作った、妖精生物だという。
その生物を一度手のひらに乗せた私は、子どもには何とも形容しようがない感覚の虜になってゆき・・・・・・。
やがて訪れる、当たり前だった生活に訪れる、静かな静かな不穏。
その傍らには、いつも妖精生物がいた。

前に読んだ「フクロウ男」の雰囲気に、今回一番近い物語。
不気味なのか不気味でないのかわからない感覚が、たぶん何よりも不気味なんだろうと気付いた。

摩訶不思議・・・
「ええか、アキラ。人生はタコヤキやで」
そんなことを話してくれたおっちゃんは、今は棺桶の中に寝かされている。

そんなおっちゃんの葬式で事件は起こる。
おそらく人生をタコヤキに例え、つまようじを周りの女に例えたおっちゃんの引き起こした、それはなんとも突拍子のない、なんとも頓珍漢な事件だったのだけれど・・・・・・。

ブレイクタイム。
なんてつもりで朱川さんがこの物語を書いたのかどうかは知らないけど、とりあえず私は爆笑させていただきました。

こーいうひとが親類にいたらさぞかし困るんだろーな。
けど周りにこーいうひとがいるっていうのも、たぶんそんなに悪いものじゃないなって思う。

花まんま・・・

しげたきよみ しげたきよみ しげたきよみ
繁田喜代美 繁田喜代美 繁田喜代美

この名を書いたボクの7歳の妹の名前は、「加藤フミ子」という。
目の前にいる、この妹は本当にボクの妹なのか。

「どんな時でも、妹を守ってやらなあかん。それが兄ちゃんちゅうもんなんやからな」
ボクにそう言ったのは、今はもういない父親だった・・・・・・。

これが一番好き、というわけではないけれど、なんとなく、けれどけっこう心に残るような、じんわり好きになった物語。
ボクがだれを守るのか、守るのはだれなのか。
それを決めたのは、ある一日の出来事。

この兄妹にしあわせになってほしいと、心底思った。

送りん婆・・・
「みさ子、あんた、コトダマっちゅうのを知っとるか」

送りん婆。そう呼ばれていたおばさんが耳元で呪文を囁く。それを最後まで聞いた人間は死ぬ。
当時8歳だった私は、おばさんの助手として働き始めた。

大酒と暴力の末に病に倒れた父親、生まれついての障害のために最後まで外にも満足に出られなかった子ども。
おばさんの呪文を聞けば父親はやさしい父親になり、子どもは庭を駆け回り、すぐに命を失くした。
「人殺し!」と叫ぶ声にも、おばさんは動じていないように見えた。

そんなある日、大阪名物どて焼き屋の店で、おばさんは私に話し始めた。
ひとを送ることのできるおばさんが、かつて一度だけ踏み外した「外道」。
一度だけ殺めた、ひとりの男のことを。

もし私がその呪文を知っていたなら、正直どうしていたかはわからない。

凍蝶・・・
『馬鹿にしたらアカンで。蝶は案外、強いんや』

ひとりでいた私にそう教えてくれたのは、18歳のミワさんという女性だった。
毎週水曜日に広大な霊園で繰り返される時間。
私は学校で起きた出来事を話し、ミワさんはそれを聞いて楽しそうに笑う。

また遊ぼうねという約束。
あのとき私は、一番ほしかったそれを確かに手にしたはずだったのだけれど。

今まで読んだ朱川さんの書く物語で、とにかく一番忘れられない物語。

読み方によっては陰惨だとも思う。じっさいに、これはけっして明るく幸せな物語ではない。
けれど蝶は、本当に『案外、強い』ものだと、そう信じた「私」を、私も信じたいと思った。

朱川さんの本を読むのはこれでまだ2冊目だけれど、この作家さんはすごく素敵な作家さんだなって思う。

昭和。大阪。
哀しみ、愛おしさ、懐かしさ。

私が知りもしないはずの感情や場所や時間から。けれどたしかに私はこの物語から、上手くいえないけれど忘れられてもけして忘れられないような、とても大事な物語を描くことができた気がする。

朱川湊人 『花まんま』 文春文庫



朱川湊人 | 20:59:56 | Trackback(0) | Comments(2)
コメント
はじめまして
はじめまして。
朱川湊人作品の感想を探していてやってきました。
つい先日『都市伝説セピア』を読んだばかりなのですが,
あの郷愁にあふれる雰囲気にすっかり魅せられました。
この『花まんま』も面白そうなので是非とも読んでみようと思います。

なお,私も天野月子嬢大好きです。
最近は参加していませんがライヴがまた楽しいんですよね。
今は新作の発表を待ち望んでいる状態です。
2008-05-19 月 22:20:11 | URL | 森山樹 [編集]
森山樹さんへ
森山さんはじめまして!お返事遅くなってすみません。

拙い感想文ですが、朱川さん作品の魅力が少しでも伝わったようで、とても嬉しいです(^^)
ホラーという点では抑え気味ですが、『郷愁』という点では『花まんま』のほうが濃くて私は好きです。

ところで森山さん、天野月子さまファンなのですか!!(←テンション急アップ)
ライブ、私は遠くに棲んでるのでいったことがないんですよ。
仕方ないから、家でひたすらDVD観てます。

新作と言えばアマフェス、とうとう発売されましたが、森山さんはもう聴かれたのでしょうか。(私はまだなのですが)
この後ブログにもお邪魔させていただきますので、かまってやってください(^^)

それでは、コメント&お立ち寄りありがとうございました!


2008-05-21 水 20:58:27 | URL | 月見 [編集]
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