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平松洋子 『平松洋子の台所』

平松洋子の台所平松洋子の台所
(2001/07)
平松 洋子日置 武晴

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(画像は単行本。実際に読んだのは文庫版です)

「電子レンジ、捨てるよっ」
十年も前のある日のことだ。私は、眉根を寄せて強面をつくり、けれども内心どきどきしているのを押し隠しながら家族の前でこう言い放った。
決めたんだからね、有無は言わせないからね。「家じゅうで最も許容範囲が狭い」この私が宣言するのだから、もはや誰にも止められやしないよ。反対しても無駄というものだよ―――そういう気分をこの短いセリフの中にぎっしりこめたつもりである。
 (「慣らし期間 『鉄瓶』」より)

煎餅入れのガラス瓶に野菜を活け、床には野菜の転がった江戸時代の煮しめ皿。
白い湯アカで覆われた錆び知らずの鉄瓶に、勢いよく米を流せば乾いた音をたてる、ブリキの米びつ。
こころ豊かに暮らすことに、一切の妥協なし。
「暮らしの達人」が贈る、珠玉のエッセイ集。

「ひと目見て、あ、これだ、と思った」

帯に書かれたこのひと言は、そっくりそのまま私の気持ち。
そう、まさに「ひと目見て」、「あ、これだ」と思ってしまって、買い物リスト(給料日の次の日あたりに作る、購入本リスト)にはない本なのについつい衝動買いしてしまったのは先月のこと。

「電子レンジ、捨てるよっ」
って、こんなこと突然言われたら、なにも平松さんのご家族でなくても非難や皮肉のひとつやふたつくらいぶつけたくなるというもの。
でもそこはそれ、達人、平松洋子さんの策には抜かりなし。

一ヶ月、二ヶ月経つと、ぶうぶう言ってたご家族も降参、というか慣れてしまって、小鍋や蒸篭をフル活用。それを見て、ふふふと小躍りする平松さん。
読んで「へー、そんなもんなのかなー」ってほうと思ったけど、案外そんなもんかもしんない。
けれど読んでると、素朴なこんな疑問がわいてきた。

「なんで、そこまでするんだろ」。

平松さん本人も言っているとおり、電子レンジ一台あるほうが、生活するためには何倍も便利なはずなのに。
料理ならともかく、なんで手間隙かけてこんなに道具にこだわるんだろ?

ふと思った素朴な疑問。
けれどずっと読んでると、なんとなく平松さんの返事みたいなものが見えてくるような気がする。
たとえば。

新しい米袋を買い、袋の口を開けて米袋を抱え、米を勢いよくざあーっと米びつに流し入れるときがむしょうに好きだ。ブリキに当たって米が乾いた音をたてる、その音を聞くのも好きだ。この二十五年間、何百回となく繰り返してきた些細な家事だが、しかし、そのたびに自分の暮らしの梁の一部を確かめるような、そんな気分を味わう。 (「知足 ブリキの米びつ」より)

そんな要素を満たしていれば、磁器でも陶器でも漆器でもなんでも―――ところがそんな茶碗においそれと出逢えるはずもなく、それならば、とあえて間に合わせのものでごまかし続けてきたのだった。
だって、ごはんを盛るのだ。生活の基本。生きる糧の受け皿。家族の健康の根っこ。すべての基本を託すごはん茶碗をないがしろにできるはずがない。
 (「わたしのごはん茶碗 根来塗の碗」より)

読んで思わず、ほうとため息が出た。
こんなにも、ひとひとりの想いをこめた暮らし。
ここまで思って道具を使ったことがないのでわからないけれど、暮らしを支えるのは、やっぱりそのひとの想いと、想いのこもった道具なんだろうなって、思った。

とにかく素敵すぎる一冊。
せっかく文庫本になったんだから、みなさん読まなきゃ大損ですよ。

平松洋子 『平松洋子の台所』 新潮文庫
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プロフィール

小津りゆ

Author:小津りゆ
3年ぶりぐらいですが、ログイン。夢だった資格をとってそれなりの仕事始まったはいいものの、現実にどっしん追突し、車体ボロボロ、エンジンぷすんぷすん状態です(なにそれ)。仕事の本ばっかりで、めっきり小説を読む時間が減。もしかしたら引っ越しして続編するかもです。

※since 2008.2.17

※オリジナル物語サイト、始めました。『ことあら』(リンク欄からどうぞ)

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